公務員の給与は地域を問わず異常な水準にある。「賃金コンサルタント」として名古屋市で中小企業への経営助言を行っている北見昌朗氏は、労働組合などの資料からトヨタ自動車と名古屋市役所の給与を比べて驚いたという。
「トヨタの給与は日本一というのが、愛知県の常識です。でも高卒の基本給を比較すると、新入社員から退職間際の職員まで、すべての年代において市役所のほうが高かったんです」
トヨタ自動車は高卒の労働組合員平均で、30歳で30万円、40歳で40万円、50歳で46万円。毎月ほぼ年齢と同じ1万円札がもらえる。一方、名古屋市職員はこれをやや上回り、30歳で32万円、40歳で44万円、50歳で48万円である。北見氏は思わずうなった。
「トヨタと名古屋市役所の労働密度には差がある。ことに生産現場は肉体的な負担も大きく、多くが途中で退職すると聞く。それに比べ、住民課の窓口で座っている50歳の職員が48万円とは……」残念ながら大卒での比較は難しい。トヨタは40歳前後で管理職になり、労働組合を脱退するケースが多いからだ。ただし、マキタ、東海理化、アイシン精機、名古屋鉄道など愛知の主要企業の45歳時点での大卒給与データと比較する限り、市役所のほうが給与は高い。
しかも、世界に冠たるトヨタも「100年に1度」の不況の影響を受ける。08年のボーナスは年間253万円(組合員平均)だったが、今年は186万円と3割減の見込み。管理職9000人の賞与は半減だ。名古屋市のボーナスは07年で192万円(全職員平均)だった。
トヨタを定年退職した大卒社員は「ボーナスはトヨタのほうが上だったが、名古屋市のほうが退職金は高い」と話す。高卒男性の場合、トヨタの退職金は、勤続35年で1900万円、勤続40年で2000万円。名古屋市役所は、35年で2400万円、40年で2700万円。大卒では算定基準となる最後の給料が月額60万円にもなるため、これより1000万円ほど上積みになる。
中小企業では比較にすらならない。北見氏が経営助言を行った中小企業の社員1万人分の退職金を分析したところ、大卒社員が管理職として定年を迎えた場合の退職金は約850万円が相場だったという。ただし、定年まで勤められる中小企業は数少ないのが現状だ。
官民格差は定年後も続く。政府の社会保障審議会の試算では年収562万円の場合、民間の厚生年金保険料は年80万円だが、地方公務員は71万円で済む。また社会保険庁によれば、厚生年金の月額平均は16万5211円で、受給権者の平均報酬月額は37万2770円。ところが総務省によれば、地方公務員の年金は22万875円。現役時代の平均報酬は不明という(いずれも06年度)。