現実を見ない楽観主義の落とし穴
イノベーションを促し、しぶとさを高める楽観主義の力はよく知られている。しかし、独力で生き残って成功することを可能にするツールを与えないまま、部下にポジティブな姿勢だけを植えつけようとしたのでは、彼らのものの見方を絶えず活性化してやらなくてはいけないはめになる。こう語るのは、スプリント社の研究所(カンザス州)の幹部コーチ、シンシア・スウォールだ。「われわれは、社員が特定の問題を解決するのに役立つ方法を探しているのではない。彼らが継続的に適応していけるよう、手助けしたいのだ」と、彼女は説明する。「モチベーションと楽観主義だけでは、われわれが求めている持続可能な変化は生まれない」。
では、そのために欠かせないもう一つの要素は何か。それは現実を認識することだ。経営書で名高いジム・コリンズは、自著『ビジョナリーカンパニー(2) 飛躍の法則』において、彼が「ストックデールの逆説」と呼ぶ心理的二面性としてこれを強調している。ベトナム戦争中、「ハノイ・ヒルトン」と呼ばれた捕虜収容所で最高位のアメリカ軍人だったジム・ストックデール将軍にちなんで名づけられたこの逆説は、最後にはかならず勝つという確信を失わず、同時に、自分が置かれている現実の最も厳しい事実を直視できる能力を表すものだ。捕虜の中の楽観主義者は、物事を解釈するにあたって、あらゆることをまもなく解放されるだろうという希望に結びつけるスタイルを持っていた。しかし、現実はその希望を打ち砕き続け、これらの捕虜たちはやがて失望に押しつぶされていった。
人間はそれぞれ独自の解釈スタイルを持っていると、ペンシルベニア大学の心理学教授、マーティン・セリグマンは言う。解釈のスタイルは、個性化(personalization)、永続性(permanence)、広がり(pervasiveness)の3つの次元に沿ってさまざまに異なっており、たとえば楽観主義者は「自分のせいではない、ずっとではない、すべてではない」と解釈する。
したがって楽観的な販売マネジャーは、直近の四半期の売り上げが20%減少したというようなマイナスの出来事を自分の責任とはみなさず、マクロ経済環境のせいにする。またそれが永続的だ(けっして消え去らない)とも、広がりを持つ(自分の生活のあらゆる分野に影響を及ぼす)とも考えず、特殊な原因を探し出す。「問題は会社の価格政策だ」というふうに。
どの解釈スタイルをとっても、それぞれ短所やこじつけがある。たとえば、「自分のせいではない」とみなす傾向を持つ販売マネジャーは、問題の発生への自分の関与を過小評価したり、無視したりしがちだ。そのため、「売り上げの減少は私のマネジメント・スタイルや経営手腕のせいではない。このまま続けていれば、事態はやがて好転する」と判断するかもしれない。それに対し、個性化の傾向が強いマネジャーは、「状況を好転させる方策を見つけようとする傾向にある」と、アダプティブ・ラーニング・システムズ社(ペンシルベニア州)の社長兼CEO、ディーン・ベッカーは語る。