目の前の問題を、自分に都合よく解釈してしまうことは誰にでもあることだ。それによって、やるべきことをやらなかったり、間違った解決法を選んだりしてしまう。こうした過ちを防いでくれるのが、柔軟で論理的な思考法である。
ジョン・ピアースは1999年から2003年半ばまで、メリルリンチのフィラデルフィア支店で個人向けブローカー部門の責任者を務めていた。この期間はファイナンシャル・アドバイザーにとって「職業人生の中で最も難しい4年間」だった、と彼は言う。それは、かつてない株価下落と企業統治に関する不祥事だけのせいではなかった。一部の証券アナリストが、自社の投資銀行部門の顧客獲得を助けるために企業評価にゲタをはかせたという疑惑が、混乱に拍車をかけたのである。
にもかかわらず、彼の部下のうち最も好成績を挙げているブローカーたちは、生来の楽観主義のために悪材料や暗い指標を軽視する傾向があった。一部のブローカーは、暗雲はすぐに消え去るはずだし、その間、自分にできることは何もないという考えに凝り固まっていて、「クライアントに『資産配分を変えるか、でなければ別の投資アドバイザーを見つけてください』と、もっと積極的に勧めることができたはずなのに、そうしなかった」とピアースは言う。
ブローカーの根拠なき楽観主義が望ましい結果を生まないことに気づいたピアースは、彼らにある訓練を受けさせた。狭い視野から抜け出して、自分の状況をより現実的な目で検討し、よりよい決定を下せるようにする訓練である。この訓練によってブローカーたちは、自らの状況の原因として考えられる要因をより幅広く検討し、それらを裏付ける証拠を探して、どの原因が最も現実的かを判断し、それから、対処可能な原因に取り組むためのプランを考案することを学んだ。
もちろん、楽観主義は好成績を挙げるために欠かせないものだ。しかし、楽観主義が本当に効果を発揮するのは、現実に根ざしているときだけだ。ピアースが気づいたように、人間は訓練によって自分の楽観的な(または悲観的な)傾向を調節し、問題解決能力を高めることができる。ここで役に立つスキルはしなやかさ(resilience)で、これが自分の通常の考え方に正確さと柔軟性を加えてくれる。しなやかさは人間の内面から出るスキルであり、個人としてのしなやかさを高めれば、戦略計画策定やリスク評価といったビジネス場面にそれを応用する能力も向上する。しなやかさを高める鍵は、考え方が感情や行動にどれほど影響を及ぼすかをより深く認識することにある。