受動的に「働かされている」社員は、それなりの成果しか生まない。「この仕事は自分のものだ」という誇りを持つ社員は、その何倍もの利益を生む。彼らは、逆境の中でも、問題を解決しようとする意欲を失わないからだ。

工場閉鎖の決定を「仕事の質」で覆す

ゼネラル・モーターズ(GM)のウィルミントン(デラウェア州)工場には、厳しい環境になるとマネジャーたちがよく上映するフィルムがある。それは、1991年、本社幹部が「この工場は3年以内に閉鎖される」と発表する場面で始まる。「決定が覆される見込みはない」と、彼は断言する。

次のシーンではこの工場の工場長が「われわれは工場を救うことはできないかもしれないが、この工場の閉鎖がどれほど愚かな決定だったか思い知らせることはできる」と語る。

そして、この工場の労働者たちは、まさにそれをやってのけた。何も得るものがないとわかっていても、彼らはきわめて質の高い仕事をし、その結果ディーラーから指定されるほどになった。工場閉鎖の時期がきたとき、本社は決定を覆さなければならなかった。ウィルミントンの労働者は、失うわけにはいかない貴重な戦力になっていたのである。

『Why Pride Matters More Than Money(誇りがカネより重要なわけ/邦訳なし)』の著者で、自身もコンサルティング会社を経営するジョン・カッツェンバックは、この話がお気に入りだ。この話は、彼の言う「組織を築く誇り」をよく表しているからだ。

厳しい経済環境でボーナスは期待できず、レイオフの心配だけは存分にある時代には、社員たちと仕事の価値について語り合い、彼らが仕事に対して持っている誇りを高めることがとくに重要になる、とカッツェンバックは言う。だが、社員たちと語り合う言葉は本物でなくてはいけない。上司の偽善はすぐに嗅ぎ分けられて、逆効果になる。ドナルド・N・サルが、企業の再生について書いた近著、『Revival of the Fittest : Why Good Companies Go Bad and How Great Managers Remake Them(適者復活:良好な会社が傾く理由、そして偉大な経営者がそれを立て直す方法/邦訳なし)』で述べているように、「成功する経営者は言行一致している」のだ。

誇りについて真剣に語り合う作業は、きわめて強力な原動力を引き出す。「誇りは心の奥深くに根づいている人間の本質的な感情だ。それは、すばらしい製品をつくる、最高のサービスを提供する、同僚たちの尊敬を勝ち取るなど、さまざまな形で職場でのパフォーマンスを押し上げてくれるものだ」と、カッツェンバックは言う。

特定の組織で働くことから生まれる誇らしさと帰属意識も、社員にとってたしかに原動力になりうるが、真に強力な動機付け要因は自分の仕事に対する本質的な誇りである。それは社員のアイデンティティーや自尊心に訴えかけるものだからだ。