IT投資のリターンには神経質になるのに、企業支出の半分以上を占める人的資本への投資効果に無頓着な経営者は少なくない。人という企業にとって最も大切な無形資産へ振り向ける投資について、より科学的に考えてみる必要がありそうだ。

企業支出の6~7割を占める人的投資の効果

あなたは自社の人的投資が利益にどれだけ貢献しているか測定できるだろうか。IT投資の収益率を示す数字を持っているように、特定の人材開発プログラムと会社の業績向上とのつながりを示すデータを持っているだろうか。

自社の人材開発プログラムを擁護する強力な状況証拠は持っていても、本当に効果がある明白な証拠を持っているだろうか。ほとんどの企業は持っていない。だが、縮小しつつある企業支出に占める人件費の割合が高くなるにつれて、企業は自社の人的資本のROI(投下資本利益率)を判定する方法を模索し始めている。

最終的な目標は、企業のさまざまな人的投資──報酬、諸手当、表彰プログラム、訓練・開発プログラムなど──のすべてを評価して、特定の戦略目標を達成するためにはどれが最も役立つかを判定できるようになることだ。この目標が実現されれば、人的資本に使える限られた財源をまずどこに投じるべきかという判断がはるかに下しやすくなるだけでなく、ウォール街が企業の無形資産を評価する手法を開発するうえでも大いに助けになるだろう。

これは一夜にして成るものではなく、なすべきことはまだ多い。人的資本のROIを測定することを、発展途上の科学とみなしてみよう。最初の作業は概念を打ち出すことだった。この作業によって、ナレッジ社会の最大の富の源は人的資本であること──ほとんどの企業で支出の60~70%が今や人件費関連だ──が示され、人的投資と企業業績との関連が打ち立てられた。これは好調なスタートではあったが、戦略立案者やアナリストの計量的ニーズを満たすところまでは至っていない。

ある臨床検査研究所の話は、企業が遂げてきた進歩を象徴的に示している。血液と尿の検査を行うこの研究所は、大量の検査を請負ベースで行っており、クライアントは24時間以内の質の高い検査を期待していた。検査の責任者は専門の学位を持つスタッフだったが、要求された時間内に検査を終えるためには、学位を持たないスタッフだけの夜間シフトが必要だった。