コンサルティング会社、タワーズ・ペリンのイノベーション担当専務、ジェフリー・シュミットの説明によると、ダイナミック・モデリング・フレームワークは、人的資本ドライバー(報酬、訓練)と、人的資本能力(リーダーシップ、社員の参加意識)や媒介的な主要業績指標(生産性、顧客満足度)との関連、そして最終的には株価や売り上げの伸びなどの財務実績データとの関連を確立しようとするものだ。

そうした関連を明らかにするためには、因果関係を証明することが必要だ。たとえば、社員の満足が企業の業績向上につながることを示すためには、2つの要因に関連があることだけでなく、社員の満足が企業の業績向上に先んじることも証明しなければならない。さらに、業績向上は、経済情勢など他の要因によるものではないことも明確にする必要がある。そしてそれらを明らかにしたうえで、最初に財源を投じるべきところを絞り込む必要がある。残念ながら、収益に対する人的資本ドライバーの影響は業界によってかなり異なるので、投資判断のための単一の公式はない。また、特定の人的投資の効果は時とともに変化する。では、今現在、どのドライバーに集中するべきかをいかに判断するか──企業の戦略を指針にすればよいのである。

「戦略との同調が、無形資産にとっての価値を生み出す」と、バランス・スコアカード・コラボラティブ社の社長、デービッド・P・ノートンは言う。無形資産の戦略的即応性が高ければ高いほど、その無形資産は会社の戦略と強く同調し、迅速に有形資産に変換することができる。そして、有形資産は流動的なもの、つまり利益に変換することができる。よって、無形資産の戦略的即応性を向上させれば、その資産が会社の目標に貢献する能力を高めていることになる。

大きな企業ビジョンが明確な場合には、それが投資判断の指針となる。すべての仕事が同じ重要性を持つわけではないから、最大のリターンを生んでくれるところに資源を集中させよう。高性能メタルを生産しているニューヨーク州のグレイ・シラキュース社は、バランス・スコアカードを使って戦略マップを作成した。同社のテーマの一つは、やり直し作業を減らして品質を向上させることだった。このテーマを支える各種作業を評価した際に、人的資源担当副社長は、鋳型組み立て作業員の初歩レベルの作業で能力にばらつきがあることに気づいた。鋳型組み立て作業員は全労働者の5%にすぎなかったが、同社はこの30人の作業員のために追加訓練を行って、彼ら全員が8つの異なる組み立て作業をすべてこなせるようにし、わずか5・4半期でやり直し作業を76%減らした。

人的資本のROI判定は、発展途上の科学であり、個々の企業が独自の実験を行う必要がある。どの人的投資が利益に最も大きな影響を及ぼすかを把握することは、人的投資から最大の効果を引き出すための欠かせないステップである。

(翻訳=ディプロマット)