勤務先に届いた危害予告
6月4日は、天安門事件が起きた日だ。私は毎年この時期になると、事件に関するニュースをX(旧ツイッター)で転送したり、自らの経験を交えて投稿したりする。
ある年の6月4日前後、勤務先に警察から連絡が入った。警視庁が市民から情報を受け付けるウェブサイトに、私と職場に危害を加えるという書き込みがあったのだ。発信元はメッセージアプリの「テレグラム」。書き込みは、私が主に滞在している建物まで特定していた。
情報は警視庁から地元の県警へ、県警から勤務先へと伝えられた。
私が道を歩いているときに携帯電話が鳴り、職員が慌てた声で「先生、大変です」と言う。
「いや、ぼくは元気に歩いてますけど」
数日後、リスク管理の担当者に呼ばれ、情報を共有した。書き込みの具体的な文面は、警察も明かさなかった。どんな言葉で危害を加えると予告したかは、いまも知らない。
勤務先に中傷する文書を持ち込まれたことも
直接乗りこんできた人物もいる。新型コロナウイルスが流行していた頃、「王松」と名乗る男が、私を中傷する文書を配りにきた。総務担当者は書類として受け付けるしかない。封を開けると、私がいかに悪人かを書き立てた紙ばかり入っていた。
当時、勤務先の防犯カメラは正門に1台だけ。リベラルな教員が多く、監視カメラの設置に反対する声が強かったからだ。
ところが男は、駅から路線バスに乗っていた。車内の防犯カメラに、顔認証でスマートフォンのロックを解除する姿が、くっきり映っていた。顔認証の機種がまだ珍しかった頃で、マスクを外した瞬間だった。
映像の存在は、県警が教えてくれた。男の身元は、おそらく突き止めているはずだ。
しかし、男は逮捕されなかった。日本にはスパイ防止法がない。外国の指示で動いていること自体を罪に問う枠組みがないのである。
捜査が打ち切られてしばらくたってから、私はXで呼びかけた。「王松」を名乗る工作員がいるらしい、知っている人は教えてほしい、と。ダイレクトメッセージで、予想以上の情報が寄せられた。私は情報をそっくり警察に伝えた。

