休職6カ月の負担カバーには売上げ1億円が必要

実はクリニックの経営効率化、売り上げ重視という点で、健康保険制度による弊害も生まれています。

30分以上診察したとしても400点、つまり診療報酬は4000円で、30分未満のときとの差は800円しかありません。それなら1人当たり5分の診察時間で、「3200×6=1万9200円」の診療報酬を30分内に得たほうが、経営には大きなプラスという計算が働きます。患者さんの心の動きを観察したり、困っていることなどを聞いていったら、15~20分は必要になるのにもかかわらず……。

なかには「自立支援医療(精神通院医療)」の制度を経営効率化の“道具”に使うクリニックも現れ始めました。基本的に窓口での支払いをかかった医療費の1割に軽減し、家計の負担能力の低い人たちでも安心して精神科の治療を継続して受けられるようにするものなのに、きちんとした企業に勤めて安定収入のある患者さんにまで、「認定を受ければ自己負担が減りますよ」とでもいうように勧めているのです。

この制度では、精神通院医療の受給者証に記載された指定自立支援医療機関の窓口に、健康保険証と受給者証を一緒に提示することで、窓口負担が軽減されます。つまり、認定に当たって自分のクリニックをその指定自立支援医療機関としてしまうことで、患者さんを囲い込めるのです。

「自立支援」「クリニック」のキーワードでネット検索すると、PRを兼ねた指定医療機関のホームページがいくつも出てきます。

こうした精神医療の現場のことがわかってくると、部下が持ってきた診断書に対して「本当にきちんと診断したものなのか」「休職した後、ちゃんと治療を行ってくれる医師なのか」と疑問に思う上司の方も出てくるでしょう。初診で出された診断書だとわかったら、なおさらのことだと思います。

正直にいって現在の精神科の医療現場では、クリニックや医師によって診察や治療のクオリティーにかなりばらつきがあるのが現状です。1年間も治療を受けていたのに、なかなか回復の兆しが見えてこなかったうつ病の患者さんが「どうしてなのか」と医師に問いただしたところ、当の医師が「本来、私は内科が専門で、精神科は専門外だから」といって、その後、私たちのような精神科の専門のクリニックに丸投げしてきたこともありました。