キャンセルボタンすらなかった予約画面
その後もマスク氏は毎年、翌年には量産を始めると言い続けた。度重なる延期コメントはやがて、テスラ愛好者の間でもお決まりのジョークになってゆく。
2025年、8年待ったブラウンリー氏は業を煮やし、とうとう5万ドルを預けていた半額枠の予約を取り消すことにした。ところが、エレクトレックによると、予約管理画面にはキャンセルボタンすらなかったという。数日にわたり何度も電話をかけて窓口につながり、やっと返金の小切手を郵送してもらえることになった。
そして、今年のデモだ。会場では、2028年に生産を始めると発表された。ブラウンリー氏はデモ自体を否定しているわけではなく、翌日にYouTube動画で反応し、実演内容の多くは「すごくクールだった」と認めている。
それでも、イベントについては「明らかに成功した技術的実験であり、マーケティングスタント(宣伝のための派手な仕掛け)」に過ぎないとまとめている。インパクトのある技ばかりを並べたこと自体が「比喩的にも文字どおりにも煙に巻く演出」だったとのコメントだ。2028年に出荷するという約束には「なんだか聞き覚えがある」と所感を漏らす。
ブラウンリー氏はまた、予約金を払って待ち続けた人の心情を推し量る。デザインは優雅な流線型の2017年版からすっかり変わった。「ずっと何らかの金額を払って待っていて、こんなふうに車が完全に変わったら、自分ならどう感じるか分からないよ」
「車の発表ではなく娯楽ショー」
自動車メディアや投資家の反応も冷ややかだ。
ルーマニアの自動車ニュースサイト、オートエボリューションのクリスチャン・アガティエ記者は論評で、デモは「純粋な娯楽ショーで、車の発表ではない」との見方を示した。PRとしては見事に目的を果たしたが、2017年の試作車はすでに葬られ、新型はまったく別の車になったと指摘する。「9年の待ち時間は無駄になり、ロードスターはまた新たな約束に戻った」と彼は言う。
ロイター通信によると、テスラに投資する運用会社の幹部であるジーン・マンスター氏は、デモは「既存の自動車メーカーに恥をかかせる以外に商業的価値のない技術の誇示」だと評した。当のマスク氏も、2023年には新型ロードスターを「小さなジャガイモ」と呼んでいる。業績を大きくは左右しない、取るに足らない存在という意味である。
足元の業績を見ても、テスラの7〜9月期の納車台数は前年同期を下回った。テスラの発表によると、2026年7〜9月期の納車台数は48万6532台。前期比では増えたものの、米国のEV税額控除が2025年9月末で終わる前の駆け込み需要もあって過去最高となった前年同期の49万7099台を、約2.1%下回った。ロイター通信によると、主力車種の目新しさが薄れ、販売実績はこの2年ほど落ち込みが続いている。

