10月15日、イーロン・マスク氏率いる米EV大手テスラは新型「ロードスター」を披露した。デモでは車が空中で一回転し、大型トラックを含む車列も跳び越えた。だが、試作車を公開し、最低5万ドル(約790万円)の予約金を集めたのは2017年のことだ。2020年に始めるはずだった量産は2028年に再び先送りされ、航続距離は当初の約束の半分にも届かない。宙を舞う新型車の実像を、海外メディアが報じている――。
イーロン・マスク
テスラのイーロン・マスクCEO(写真=Steve Jurvetson/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons)

大型トラックの列を跳び越えたテスラ車

白いEVスポーツカーが、反り返った走路を駆け上がってゆく。半円状に宙へと伸びるスロープを進んだ車両は、頂点に到達すると天地が逆さまに。だが、走路に吸い付いたまま、落ちることはない。

続いて車は再びスロープを駆け上がって宙へ飛び出し、およそ20mもあろうかという高所からくるりと空中一回転をこなす。スラスターの噴射で姿勢を制御しながら、危なげなく着地を決めた。

10月15日、米電気自動車(EV)大手のテスラは米テキサス州で開催した新型「ロードスター」の披露会場で、常識を超えたこのデモを見せた。同社のイーロン・マスクCEOは実演に先立ち、「目で見たものを、あなたは信じないだろう」と予告していた。

同日行われた別のデモではさらに、大型トラックなど複数の車が並ぶ列の上を軽々と跳び越えてみせた。「これまで見た中で最もイカれた製品デモ」だと、テスラのファンで投資家のソーヤー・メリット氏は、ソーシャルメディアのXに投稿している。

会場に詰めかけた人々は歓声を上げたが、そもそもこの車は、とうに公道を走っているはずだった。テスラが新型ロードスターの試作車を公開したのは2017年。最低5万ドル(約785万円)の高額な予約金を集め、2020年には量産を始めると約束した。

航続距離は約束の半分にも届かない

今年で試作車の公開から9年が経つ。ロイター通信によると、テスラは量産開始を2028年に再度先送りしたという。現在約束されている航続距離は、300マイル(約480キロ)超。2017年に約束した距離の半分にも届かない。米EV専門ニュースサイトのエレクトレックが報じたように、待ちくたびれた予約者の多くは、すでに購入をキャンセルした。

注目の「空飛ぶ車」のデモで人々の関心を集めたテスラだが、主力車種の販売の伸び悩みという課題は抱えたままだ。

反転して落ちない車の種明かしは、床下に設けられた強力なファンだ。

車の下から猛烈な勢いで空気を吸い出し、車体をスロープに押し付ける。走路を越えて空中に飛び出すと、今度はジェット噴射(正確には、燃料を燃やさず圧縮空気を噴き出すスラスター)で姿勢を立て直して着地する。米ニュースサイトのデクリプトによると、テスラの車両エンジニアリング担当副社長ラース・モラビー氏は、スペースXの技術の一部を取り入れたと語った。

こうして9年越しに姿を現した新型は、見た目も仕掛けも、とことん派手に作り込まれている。流れるような曲線をまとった2017年の試作車から一転、今回のデザインは角ばった印象だ。テスラのピックアップトラック「サイバートラック」を思わせる鋭いエッジが目立つ。