着工10カ月で建ったのは宿舎だけ
新空港は2024年8月に着工した。だが、それから相当たっても、空港の建設地には作業員の宿舎しか建っていなかった。
着工10カ月後の2025年6月、国外を拠点に報道を続けるニカラグアの独立系メディア、アルティクロ66の取材班が、軍の監視の目をかいくぐって現場へ向かった。幹線道路の41キロ地点で脇道に入ると、路面のあちこちに洪水の爪痕が残っている。
有刺鉄線を張ったゲートには、「軍事地域、立ち入り禁止」の看板が掛かっていた。その横には、中国の国有企業グループ、シノマックの標示板が立つ。空港の工事と融資を担うCAMCE(中国CAMCエンジニアリング)の親会社だ。
ゲートの奥には兵士の詰め所があり、そのさらに先に、石膏ボードなどの簡素な資材でできた宿舎が12棟ほど並んでいた。ここで中国人労働者が寝泊まりしているのだという。
アルティクロ66の取材班は別々の日に2度現地に入ったが、肝心の重機は1台も見当たらず、大工事にふさわしい作業員の動きもなかったと報告している。代わりに目にしたのは、警察のバイクに先導されて現場へ向かう、中国人を乗せた車列のみだった。
空港の建設地を抱えるサン・フランシスコ・リブレの町では、工事がほとんど進まないうちから、住民の間に期待と不安が交錯していた。「漁師と農民の町の平穏が終わる」と嘆く声も聞かれる。空港建設を発展の好機とみる住民でさえ、外から来た者に畑を奪われるのではと恐れていた。
中国の融資が届かなくても払う前払い金
宿舎しか建たなくても、建設を担う中国企業は損をしない。ニカラグアが工費の一部を先に払う契約になっているからだ。
取材班が現地に潜入した2025年6月の時点で、ニカラグアはすでに1億700万ドル余り(約169億円)を投じていた。ニカラグア亡命メディアのコンフィデンシアルが予算執行報告から集計した、2023〜24年の支出額だ。
この支出には、総事業費の2割にあたる前払い金が含まれる。中国側から資金が届かなくても、ニカラグアはこれを支払う義務を負うという。中米調査報道メディアのエクスペディエンテ・プブリコによると、前払い金の額は1億352万ドル(約164億円)に上る。
一方、中国の融資による支出額は、2025年6月までの報告書には記載がない。同年9月までの報告でようやく計上された最初の融資分は、約1320万ドル(約20億9000万円)。総事業費の8割にあたる融資額4億1408万ドル(約654億円)の、わずか3%ほどだった。
米陸軍大学校戦略研究所のエバン・エリス教授は、コンフィデンシアルの取材に「事業が進まなければ、前払いした2割は失われる」と警告する。エリス氏によると、前払いは中国の融資では「標準」の条件だが、IMFなどの国際機関の融資ならこのような条件は盛り込まない。中国だけが、事業が止まっても多くの資金を受け取れるような融資条件を要求するという。

