壁を守るだけでは、信頼は戻らない
この投票の背景にある中道陣営の亀裂や連立形成の難しさは、9月の州議会選挙の後、すでに専門家が指摘していた。
米ブルッキングス研究所のマティルダ・シルビガー氏とコンスタンツェ・シュテルツェンミュラー氏は、9月25日の論考で、中道の陣営に入った亀裂を論じている。CDUの中には防火壁の撤廃を求める声があるが、それは党の分裂を招きかねない。逆に、AfDが政権をつくれないままであれば、AfDは統治の力を試されずに済み、中道の政党どうしが傷つけ合うのを待つことができる、という見方である。
政治学者ダヴィデ・ヴァンパ氏は、9月8日に英エディンバラ大学の研究拠点Centre on Constitutional Changeで発表した分析で、ドイツの強みと、その負担を併せて論じた。政党が細分化しても、新しい組み合わせの連立をつくって政治を動かす。それがドイツの強みだった。だが同州では、AfDを除いて多数派をつくるには、残る5つの政党すべてが加わる必要がある。自由に選べる組み合わせは、狭まっているのである。
70%が物価の上昇を重荷と感じていた
有権者の側にも変化がある。政治学者ゼバスティアン・ブコウ氏が、緑の党に近いハインリヒ・ベル財団で9月8日に公表した論考は、選挙前の世論調査を引き、同州では70%が物価の上昇を重荷と感じ、58%が生活水準を脅かされていると感じていたと紹介した。同氏は、AfDへの支持には、これまでの政治への抗議に加えて、同党の政策や候補者を積極的に選ぶ動機も強まっていると分析している。
これらの分析を重ねると、2つのことが見えてくる。AfDとの協力を拒むことには、民主的な秩序を守るという意味がある。同時に、既存の政党には、有権者の不満に応え、統治の成果を示す責任がある。共通の相手に反対することと、共通の未来を示すことは、別の仕事なのである。壁を守るだけでは、壁の内側の信頼は戻らない。

