病院の宝物は「粒ぞろい」の指導医たち

吉田はこう言う。

「どの病院で研修するかは人生を左右するので、研修医は必死で情報を集めます。若手産婦人科医が集まる病院は、いい病院なんです」

そのために重要なのは指導医を充実させることだと吉田は考えている。

「指導医の層が厚くて、あらゆる手技を学ぶことのできる病院。なおかつ医局の雰囲気がいいこと」

指導医とは専門的な知識や技術を持ち、若手医師、研修医、専攻医を教育、指導する資格を持つ医師のことだ。臨床だけでなく学会発表、論文作成、研究などの指導も行う。産婦人科の場合、日本専門医機構及び日本産科婦人科学会が認定した資格である。

「指導医は技術だけでなく人格も必要。いや、人格の方が大事かもしれない。今の千船の指導医は粒ぞろい。いわば鉄壁で、病院の宝物と言ってもいい」

河谷が産婦人科に加えて“頭痛”という専門分野に注力するようになったのも、千船病院で出会った指導医の影響だった。

「私自身、もともと頭痛があって学生のときから薬を飲んでいたんです。出産後、復帰したとき頭痛がひどくなってしまった。そこで頭痛外来の稲垣(美恵子)先生に相談して薬を調整していただいた。それがきっかけで頭痛の勉強を始めました」

稲垣は千船病院の頭痛外来を担当している。産婦人科医が頭痛外来を兼ねているのは全国的にも珍しい。頭痛は女性ならではのホルモン変化とも関係がある。産婦人科医ならではの視点は頭痛外来の役に立つと河谷は言う。

「産婦人科の外来で話を伺っていると頭痛をお持ちの方は多い。普段から頭痛薬を使っておられる方が、妊娠を考えるとき、どの薬を使っていいのかなどの相談に乗ることもできる」

今は仕事の他、子育てにも追われる毎日で、一日一日を過ごすだけでいっぱいいっぱいですと、河谷は笑う。ただ、先の道も見えている。稲垣のように頭痛も専門として女性の人生に寄り添う医師になりたい――。

千船病院産婦人科医員の苔原つばささん(写真左)と医長の河谷春那さん(写真右)
撮影=奥田真也
千船病院産婦人科医員の苔原つばささん(写真左)と医長の河谷春那さん(写真右)

若手が萎縮する環境では人は伸びない

河谷の同僚である苔原つばさも指導医の良さを感じている。

「今、振り返って見ると指導医の先生たちが、質問したときすぐに答えを教えるのではなかったこと。こちらに考えさせるような質問で返していたこと。自分自身がどうしたらいいのか考えること、そのプロセスを大事にしていたことは印象に残っています」

吉田の掲げる3つ目の要件は、「看護師、助産師などコメディカルが集まってくる病院」だ。コメディカルとは、医師以外の医療専門職である。看護師、助産師の他、薬剤師、臨床検査技師、理学療法士、管理栄養士、医療ソーシャルワーカーなどが含まれる。

吉田は「組織は人がすべて」だと強調する。

「若手が萎縮する環境では人は伸びない。パワハラ、セクハラは問題外」

千船病院広報誌『虹くじら 06号』
千船病院広報誌『虹くじら 06号』

研修医が伸び伸びしている今の状況はいいと思っていますと微笑む。

2025年、千船病院の分娩数は2661件。婦人科のロボット支援手術の件数は全国7位。吉田が気にかけている産婦人科専門研修プログラムの応募者数ランキングは全国10位。上位は募集人数が多い大学病院が占めている。そこに私立の一般病院である千船病院が食い込んでいる形だ。

今年4月、吉田は院長補佐となり、他の診療科も統括するようになった。

「千船病院は西淀川区で唯一の総合病院でもあるんです。周産期以外の成人系の内科外科をもっと発展させていきたい」

(取材・文=田崎健太)

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