オックスフォード大で研究後に千船病院へ
中でも吉田が注力したのは、がん、である。
我々の身体は数十兆もの細胞からできている。受精卵という1つの細胞が分裂を繰り返して増殖、様々な種類の細胞に分化する。それらの細胞が身体の組織、臓器となる。
身体ができあがったあとも細胞は必要に応じて増殖する。どの細胞がどれだけ増殖するかはコントロール下にある。このコントロールから外れて細胞が増殖し続けることがある。余分な細胞が塊となったものが腫瘍である。腫瘍には良性と悪性の2種類があり、がんは後者とほぼ同義だ。
婦人科のがんは3つ。子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん、である。すべて女性の生殖器に発生する悪性腫瘍だ。子宮頸がんは子宮の入り口(頸部)、子宮体がんは子宮内膜、卵巣がんは卵巣の悪性腫瘍である。治療は他の固形がんと同様に、外科手術、抗がん剤、放射線治療、分子標的薬などである。
吉田は、婦人科治療への知見を深めるためにイギリスに留学していたこともある。
「オックスフォード大学で2年間、婦人科疾患の原因遺伝子を見つける研究をしていました」
婦人科がんの最前線にいた吉田に千船病院から声がかかったのは2012年のことだった。
千船病院は大阪府の地域周産期母子医療センターに認定されている。地域周産期母子医療センターは、産科、新生児医療を備え、ハイリスク妊娠や早産、緊急帝王切開などの高度な周産期医療を24時間提供する。
「私が着任する前は、どちらかというと産科がメインの病院。私に求められたのは、婦人科の手術指導でした」
産婦人科部長、そして副院長となった吉田はこれまで温めていた案に取りかかることにした。
「神戸大学に約20年いる間に、自分なりの理想の産婦人科というのが固まってきたんです。それを千船病院で実現してみたいと思ったんです」
理想の産婦人科にある3つの要件
理想の産婦人科には3つの要件があるという。
「まずはたくさんの患者さんが集まってくる病院であること。産科で言えば、医療レベルがしっかりしていて、サービスがいい。ご飯も美味しい。産後のケアも充実している。そして値段も高くない。婦人科では、腹腔鏡など低侵襲手術のレベルが高いこと」
低侵襲とは、お腹を大きく切る開腹手術とは違い、“侵襲”つまり身体を傷つけることが少ないことを意味する。腹腔鏡、ロボット支援手術を指す。
「患者さんはなるべく小さな傷で済ませたい。1キロを超える子宮筋腫の切除は基本は開腹手術です。千船病院では患者さんが希望されるならば腹腔鏡の手術でやる。できるだけ患者さんの希望に応えたい」

