人生後半の現実に働き方がフィットしていない
3つ目は、「学び直し(リスキリング)の機会の乏しさ」です。
社会全体の意識として、いまだに「学び直しは若手や転職希望者のためのもの」という空気が残っています。ところが長寿社会においては、むしろ人生後半にこそ学び直しの意味が大きくなる。仕事の中身が変わり、役割を変え、デジタルに適応し、複業や地域活動へと接続していく。こうした変化を乗りこなすには、中高年層の学習こそが欠かせません。それが企業内でも後回しにされやすいのです。
そして4つ目が、「健康や家庭の責任」です。
50代以降は、自分の健康の変化だけでなく、親の介護や配偶者の健康問題など、生活上の責任が重なりやすい時期です。ところが、「フルタイム前提」「長時間労働前提」「転勤前提」の働き方しか用意されていない職場では、本人にどれだけ能力があっても仕事を継続することが難しくなります。
人生後半のキャリアが細る最大の理由は、「働き方の側が、人生後半の現実にフィットしていないこと」にあるのです。
高齢者が働きたいかどうかの問題ではありません。働きたいと強く願っても、制度と慣習がその思いを細らせているのです。
「定年延長の議論」ではなく「役割の再設計」
高齢就労を広げる議論では、どうしても「何歳まで働けるようにするか」という年齢の引き上げにばかり焦点が当たりがちです。
もちろん、定年年齢の引き上げや継続雇用の整備は重要です。しかし私は、真に重要なのは「年齢の延長」よりも「役割の再設計」だと考えています。
雇用年齢だけを延ばしても仕事の中身が変わらなければ、本人にも企業にも必ず無理が出ます。たとえば、管理職として陣頭指揮を執ってきた人が、60代以降は若手の育成、社内調整、顧客からの信頼維持、専門案件への助言に軸足を移す。現場作業が中心だった人が、品質管理、安全教育、手順の標準化に役割を移す。営業の最前線から退き、既存顧客との関係維持や難易度の高い交渉のサポートへ回る。
こうした「役割の設計」があって初めて、人は年齢を重ねても力を発揮し続けやすくなるのです。
人を仕事に合わせるより、仕事を人に合わせる
この「役割の側」を、働き手一人ひとりに合わせて組み替えた会社があります。群馬県昭和村で有機栽培のこんにゃくや漬け物、冷凍野菜などを製造する「グリンリーフ株式会社」です。
目を引くのは「働き方ポジション選択シート」という独自の仕組みです。本人が自分の体力や家庭の事情に合わせて、四半期ごとに働き方と持ち場を選び直せる。
役割が動かせるからこそ、年齢の線引きも動かせます。同社の定年は70歳。その先も、本人が希望し、自力で出社できるかぎり働き続けられる。2025年時点の最高齢は82歳です。この規定は、各部署から社員が集まる「就業規則作成委員会」の提案から生まれたものだそうです。
さらに、現場で感じた小さな改善点を「チョコ案」(ちょっとしたアイデア)として出し合う提案制度からは、昇降台や運搬用のハンドリフトの導入が実現し、高齢の働き手の身体的負担を軽減しました。
こうした地道な積み重ねが高く評価され、同社は厚生労働省などが主催する「高年齢者活躍企業コンテスト」で、厚生労働大臣表彰の最優秀賞を受けています。
定年で一律に線を引くのではなく、働き手に合わせて仕事のほうを設計し直す。「人を仕事に合わせる」のではなく、「仕事を人に合わせる」。役割の再設計とは、まさにこういうことなのです。
人生後半の確かなキャリアが見える会社は、若い世代にとっても魅力的です。「歳を取るほど不要になる会社」ではなく、「年齢や状況が変化しても、必ず自分の役割がある会社」だと映るからです。
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