「人生100年時代」なのに「80年時代」の働き方のまま

この再設計の実装に、すでに取り組み始めた国があります。シンガポールです。

同国は2026年7月、法律で定める定年を64歳に、その後の再雇用義務の上限を69歳に引き上げました。さらに2030年までに、それぞれを65歳と70歳へ引き上げることも、国家の工程表(ロードマップ)として明確に掲げています。「何歳まで働ける社会をつくるか」を、単なる掛け声ではなく、期日つきの国家計画として進めているのです。

私はこの問題を、経営者としても政治の現場に身を置く者としても非常に重く見ています。企業の現場では、豊かな経験を積んだ中高年人材が力を発揮できなくなることが、そのまま組織全体の競争力低下につながります。社会全体で見ても、これだけ長寿化しているにもかかわらず働き方の制度や慣行が長寿前提に変わっていないことが、計り知れない損失を生んでいるのです。

「人生100年時代」という言葉は広く定着しましたが、日本人の働き方はまだ「人生80年時代」のままです。そのズレをいかにして埋めるかが、本稿の中心テーマになります。

60代、70代で働くことはもはや珍しくない

まず確認しておきたいのは、日本はすでに「高齢者が働く社会」に入っているという事実です。

60代、70代で働くことはもう「例外」ではない
出所=『ロンジェビティ・エコノミー』(小学館新書)

総務省の統計によれば、2024年(令和6年)平均で65歳以上の就業者数は930万人と21年連続で増加し、就業者全体に占める割合は13.7%で過去最高となりました。

数字をもう少し細かく見てみましょう。

60代前半では、男性の8割以上、女性のおよそ3分の2が働いています。60代後半でも、男性の6割、女性の4割以上が現役です。70代前半になっても、男性の4割以上が働いています。もはや60代、70代で働くことは「例外」ではありません。

日本の高齢者の就業率は、世界の主要国の中でも際立って高い。高齢者就労はこれからの未来の話ではなく、すでに目の前にある現実なのです。

ところがこの現実に対して制度や企業慣行の側は十分に「長寿前提」へと切り替わっていません。代表的なのが「定年と再雇用」の仕組みです。