中国が嫌った「2つの資金源」
2016年の時点で中国政府は、ML-1の改修に66億7000万ドル(約1兆300億円)の拠出を約束していたが、それが実現することはなかった。
そこでパキスタンの命綱となったのが、ADBだ。米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)は、日米両国がいずれも15.6%の株式を保有する最大の株主だと指摘する。歴代総裁はすべて日本人が務めてきた。2025年2月には、財務省で財務官を務めた神田眞人氏が第11代総裁に就任。今年9月1日には5年の任期で再任され、2031年11月までを任期としている。
なぜパキスタンは、かつて自ら拒んだADBに今になって頭を下げているのだろうか。経緯は2017年にさかのぼる。
ML-1は当初、ADBが一部を資金提供する計画だった。ところがこの年の4月、パキスタンのアフサン・イクバル計画開発相は、ADBからの一部資金提供を断ったと発表した。
理由は中国の意向だ。ドーンによれば、イクバル氏は、「中国は、2つの資金源から資金提供を受けることは問題を引き起こし、プロジェクトを損なうと強く主張した」と語った。代わりに中国が全額を用立てることも、同氏は明らかにした。
ADBはこのとき、極めて重要なプロジェクトへの参画機会を逃したことになる。ML-1は旅客の面でも貨物の面でもパキスタン国内の主要輸送ルートだ。当初の計画では、総額80億ドルのうち40%強にあたる35億ドル(約5400億円)をADBが融資することになっていた。
「戦略的に重要」でも進展はない
2017年5月、パキスタンは中国と枠組み協定を結ぶ。エクスプレス・トリビューンによれば、中国が事業費の85%を譲許的融資(大幅に低い金利または無利子で、返済期間や猶予期間が長く設定されている融資)として提供する内容で、両国はこのプロジェクトを「戦略的に重要」と位置づけた。
だが、それ以降の目立った進展はない。当初はカラチ―ペシャワール間を2段階で整備し2022年に完成させる計画だったが、2019年4月の時点で両国はなお、実現可能性調査を終えようという段階にすぎなかった。事業は改めて3段階に分割され、着工から完成までに少なくとも6年かかる見通しとなった。
ML-1は、徐々にかつての汚名をすすぐはずだった。
2015年、ML-1の改修がまだ着工しておらず、中国の資金援助も約束の段階だった頃。特急列車の「グリーンライン」が華々しくデビューした。停車駅を絞り、時刻表どおりに走ることを売りにした看板サービスで、改修を待つML-1の上を走る。
ブルームバーグによれば、午後10時のカラチ駅のホームでは、イスラマバード行きのグリーンラインが定刻の発車を告げる汽笛を鳴らす。停車駅を絞ったこの夜行は、22時間でイスラマバードに着く。
15年にわたり各種列車の車内で菓子類を売ってきたラナ・イフティカー・アフマド氏は2018年、ブルームバーグの取材に「以前はひどい状態でしたが、今は時間通りに目的地に着いています」と語った。近年、売り上げは最大50%伸びたという。年間の乗客数も5年前より25%増え、5200万人を超えた。

