宿泊税、二重価格だけでは足りない
住民と共存する形でインバウンド観光を振興し、観光収益が外国に流出するのを防ぐことを目指す試みは、村の行政側でも始まった。
旅館経営者出身で、7月に再選された丸山村長は2期目の課題として「村民の暮らしと観光振興の両立」を掲げた。再選後の筆者とのインタビューで丸山氏は、一部のインバウンド旅行者によって落書き、路上スキー、交通事故などで村民が迷惑をこうむっている事例があることを認めたうえで、旅行者に対する啓発活動を行いつつ、6月から始まった宿泊税による税収を利用して防犯カメラの増設など村内の防犯体制の強化に取り組みたい姿勢を示した。
また、村内の物価について「円安の影響もあり、観光価格になって住民にとって高くなっている」と指摘し、昨年始まった地域通貨を利用して「(住民と住民以外の価格設定を分ける)いわゆる二重価格のようなものを導入して、村民の生活に支障ないような価格を提供したい」と述べた。他のインバウンド観光地同様、白馬の場合も飲食店などの物価高騰は顕著で、一般的な食堂でも和定食4000円、カツカレー2500円といった東京のホテル並みのメニューを掲げているところもある。
激増していたインバウンドに異変が…
一方、丸山村長は、村内の土地価格の上昇について、経済を活性化させる効果があることを認めつつも、外国人による短期転売などに懸念を示し、投機的な土地取引を抑制するために設けられた国土利用計画法に基づく「監視区域」に村を指定するよう県に引き続き求めていく方針を表明した。さらに、「(土地を)持っているだけで税金があがってしまうのは今の(村の)状況には合っていない」と述べて、国に対して、外資規制が難しいようなら税制面での何らかの規制をすべきとの考えを示唆した。
白馬村の問題は、インバウンドで観光立国を目指す日本全体の問題でもある。
急勾配の右肩上がりを続けてきた訪日インバウンド旅行者数は今年、コロナ禍以降で初めて前年を割りそうだ。対中関係悪化に伴う中国からの訪日客激減やコロナ後の回復基調の落ち着きなどにより、推計値ベースで4~6月の3カ月連続で前年を下回った。JTBが年頭に発表した見通しでは、2026年は4140万人と前年の97.2%にとどまると予測している。今年3月に発表された政府の「第5次観光立国推進基本計画」で改めて打ち出された、2030年までにインバウンド6000万人の目標を達成するには来年以降、毎年、前年より10%近い増加を続けなくてはならない。目標達成には黄信号が灯ったといってもいいだろう。

