1枚の生成AI画像が大混乱を招いた
8月21日18時28分、日本保守党の北村晴男参院議員はXで、「玉城デニー県政を終わらせること、それこそが国益に叶います(原文ママ)」と主張。その約1時間後には、県外在住を名乗る古謝玄太候補の支持者が、北村氏への返信として「国益にかなう沖縄をつくる」と書かれた古謝氏のポスター風の画像を投稿した。
作成者は後に、「沖縄だけでなく、日本のためにはこの人が良さそうだと本土から応援したかっただけです」と説明している。本人の説明によれば、画像を作った意図は攻撃ではなく応援だった。
SNS上の支持者の集団(界隈)のなかで、仲間の士気を高める画像や動画が投稿されること自体は珍しくない。生成AIの登場によって、専門的な知識を持たない個人でも、それらしい宣伝素材を短時間で容易に作れるようになった。今回の画像も、その一つだったと考えるのが自然だろう。
しかし、画像が界隈を超えて拡散した瞬間、その意味は様変わりした。選挙ポスターのように見える画像は古謝氏側の公式の発信と受け取られ、「沖縄県民より国益を優先するのか」といった批判を招いたのだ。古謝氏を勝たせるための画像が、古謝氏を落選させるための材料へ変わったのである。
画像だけでなく物語も次々と生まれた
ところが、事態は再び急転する。22日夜、古謝陣営に入っていた自民党の新垣淑豊県議が、画像に掲載されたようなフレーズは使ったことがないと否定した結果、たちまち「左派が偽情報に飛びついた証拠」という新たな意味が生まれ、一部の利用者らに活用されたのだ。
新しい意味が生まれることで、往々にして敵と味方が峻別される物語が膨らむことを考えれば、意味だけでなく物語までもが次々と生成されたことになる。
なお、24日には古謝氏側も関与を否定し、25日には作成者が謝罪。そして26日には、画像には生成AI由来の電子透かしが含まれ、古謝陣営が作ったものではないと日本ファクトチェックセンターが報じている。
ここで重要なのは、それほど労せず生成AIによる画像だと判明したように、巧妙な隠蔽工作がなされていなかったという点だ。
それにもかかわらず、一つの画像が三つの物語を生成し多数のインプレッションを稼ぎ出したならば、仮に意図的かつ精巧に作られていたらどうなっていたのだろうか。生成AIの痕跡が容易に確認できず、誰が作ったのかも分からず、複数のアカウントが事実であるかのように同時に拡散していたら、投票日までに正体を突き止められたとは思えない。

