儀礼的な表敬に終始したわけではない
事後、日本メディアでは、ホワイトハウスが提供した一部の写真、〜例えば私がMAGA(Make America Great Again)帽子を被って笑顔でダブルサムアップして撮った写真〜を繰り返し報じていたので、社交的な表敬であったというイメージが強かったかもしれない。(なお、読者のみなさまにはお分かりいただけると思うが、トランプ大統領の隣で笑顔で写真にうつること自体が、交渉相手国の国家元首に対して礼儀を示すという重要な意味があった)
しかし、儀礼的な表敬に終始したということはまったくない。実際は、同席した閣僚も緊張した面持ちで見守る中、トランプ大統領と私の間で関税に関する真剣な議論がおこなわれた。
残念ながら、実際のやり取りの詳細を明かすことはできないが、大統領は、関税協議を早期にまとめたいという意向を強く示しつつ、日本との間の貿易赤字に強い不満を示されてもいた。事前の予想どおり、自動車や農産品への言及もあった。
私としても、日本を背負って交渉に臨んでいる以上、相手が米国大統領であっても黙っているわけにはいかない。大統領の言葉の一つ一つに注意深く耳を傾けながら、米国が繁栄し続けるために今の世界を変えなければならないという大統領の強い問題意識は理解しつつも、「関税より投資」を含む日本の立場を丁寧に説明した。
交渉時のトランプ氏の様子
私の発言に対し、トランプ大統領としても、もっと言いたいことはいろいろあったと思う。しかし、大統領は終始非常に紳士的であり、静かに私の発言に耳を傾けておられた。実は、時おり大統領の顔が紅潮するような冷や冷やした場面もあったが、感情的になられることもなく、冷静な議論をおこなうことができたと思う。
交渉人としての最初の訪米、しかも米国到着直後のタイミングで、トランプ大統領本人から直接お考えをうかがい、そして日本の立場を直接お伝えできたことは、その後の交渉戦略を考えるうえでも有益であった。
ただし、大統領の言葉の端々から、大統領自身が本気であるという無言のメッセージは強く伝わってきた。「日本との協議が最優先である」という大統領の言葉は、他の国が70カ国、100カ国と列をなしている中で、日本との関係を重視しているというサインでもあったが、同時に、大統領の人物像、強い意思と個性を目の当たりにして、この交渉が「一筋縄ではいかない」ことを痛感せざるを得なかった。
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