急遽行き先が財務省→ホワイトハウスに
眠気も吹き飛ぶニュースであったが、私は自分でも驚くほど冷静に受け止めた。2人の幹部に対して「おう、分かった。ありがとう」とだけ応じたうえで、機内で、どのようにトランプ大統領とやり取りをするか、静かに頭を巡らせていた。
この知らせを聞いて、外部、特に日本国内では大騒ぎとなっているようであった。報告を受けた後、しばらくしてメディアによる速報が次々と流れてくるようになり、東京では関係者が急きょ官邸に集まり、状況報告・相談をしているようであった。
それとは対照的に、私を支える交渉チームや、現地の受け入れをする山田重夫駐米大使ほか大使館関係者は、非常に冷静かつスムーズに準備を進めてくれた。ダレス空港に到着した時には、既に(協議を実施予定であった)米国財務省からホワイトハウスへの行き先変更もできており、また、空港で待ち構えていたメディア関係者からの質問への準備も整っていた。
空港からホテルに移動し、勉強会をおこなった際には、既にトランプ大統領表敬用の資料が出来上がっていた。
「やるしかない」
突然の出来事によって、現場の関係者はむしろ結束を強め、チームとして一つにまとまることができた。強いチーム、結果を出すチームの特徴は、事に臨んでパワーアップする(化ける、覚醒する)ことだと思う。つくづく良いチームを授かった。
「格下も格下」と語った本意
ホワイトハウスのオーバルオフィスでおこなわれた約50分間の表敬は、トランプ大統領自身から、多くの国が米国との交渉の列に並ぶ中、日本との協議が最優先されているという、明確なメッセージが伝えられた。
私自身、当日の会見で「(大統領から見て私は)格下も格下ですよ。出てきて直接話をしてくださったことは本当に感謝しています」と振り返ったわけであるが、これは紛れもない本心である。
無理に背伸びをしても仕方がない。相手は世界一の超大国の国家元首(大統領)、こちらは同盟国とはいえ一閣僚に過ぎないという立場を理解したうえで、相手への最大限のリスペクトをもって懐に飛び込みつつ、日本の立場を直接お伝えする。国家国民のために言うべきことはすべて言い切る覚悟であった。その時点で必要な最低限の仕事は果たせたと思う。
