売買春の「地下化」がもたらす危険

買春行為そのものを処罰する制度は、1999年にスウェーデンが導入したことから「北欧モデル」と呼ばれ、現在はフランスなど11の国や地域に広がっている。

スウェーデンでは導入後、主要都市の路上の売春者が減少した。しかし、取引がオンラインやプライベートな空間など、統計に現れにくい場へ移っただけとの指摘もある。これを売買春の「地下化」という。客が逮捕を恐れて身元を明かさない、客が減って危険な相手でも断りにくくなる、暴力を受けても警察に相談しづらくなる――市場が縮小したように見えても、そこで働く人たちの安全が脅かされるなら、それは「成功」とはいえない。

フランスでは、買春者処罰法の導入後、42.3%のセックスワーカーが暴力の増加を報告している。施行10年を迎えた今年4月には、緑の党など左派から買春者の非犯罪化を求める法案が提出された。

買う側を処罰すれば、需要が減り、性風俗の市場が縮小し、そこで被害を受ける人も減る――そうしたイメージどおりに事が運ぶとは限らないことを、海外の事例ははっきりと示している。

夜道を歩くカップルの影
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「社会の風紀」より「人権」重視を

そして今回の報告書案には、もうひとつ見過ごせない点がある。売る側の勧誘や客待ちなどへの罰則を残す方向性が示されたことだ。理由として検討会で挙げられたのは、「社会の風紀」や「公衆への迷惑」という観点だった。

検討会では、性風俗の現場には困窮や搾取などを背景に、支援を必要とする当事者が多数いることも認識されている。もちろん、すべての当事者がそうであるとは限らず、みずから職業として選ぶ人もいる。働くに至った事情が何であれ、当事者自身が犯罪者として扱われうる仕組みが維持されれば、2025年の大久保公園と同様に逮捕され、報道される可能性も残る。

買う側への罰則を新たに設ければ、地下化によって当事者を危険にさらす懸念がある。一方、売る側への罰則を残せば、当事者自身が引き続き犯罪者として扱われうる。しかも後者では、安全や人権より「社会の風紀」や「公衆への迷惑」が優先されているように見える。こうした懸念を残したまま、国会への法案提出が進められることには、強い危機感を抱かざるをえない。