研究・調査が示す「加害の連鎖」が起きる理由

今年4月、京都大学は、近畿地方の公立中学校5校の生徒1820人を対象とした「国際自己申告非行調査(ISRD)」の結果を公表した。過去1年間に何らかの非行を経験した割合は、親から暴力を受けた経験のない生徒では2.8%だったのに対し、暴力を受けた生徒では9.9%であり、約3.5倍に達する。さらに、2種類以上の非行を経験した割合は0.6%と3.3%で、後者は前者の5倍を超えた。

令和5年版犯罪白書では、少年院在院者の61.0%が家族から殴る、蹴るといった身体的暴力を受け、34.8%は母親が父親や母親の恋人から暴力を受けていたと回答している。また、何らかの小児期逆境体験を持つ割合は、少年院在院者で87.6%、保護観察処分少年で58.4%に達する。

京都大学の調査と合わせれば、幼少期の過酷な経験と非行との間に強い関連があることがわかる。ここには、加害を受けた子どもが自らも非行に関わる側へ回ってしまう「加害の連鎖」の一端を見て取ることができる。

この連鎖は、家庭内という個人的で見えにくい世界ではじまるため、外部から異常を察知し、そして適切な対処をするのが極めて難しい。だからこそ、早めに連鎖を切ることが肝要になる。

ヤンキーから受ける“事実上の教育”

しかし、この連鎖を断つ役割を、学校教育だけに背負わせることはできない。家庭で十分な養育を受けられず、すでに暴力や非行にさらされている子どもに対しては、授業や生活指導だけでは対応しきれない場合もある。まして、教員不足や採用難が続くなか、その対応を教師個人の熱意や力量に委ねるのには無理がある。

こうして家庭でも学校でも十分な支えを得られないまま、非行少年・少女がヤンキーのコミュニティーに入り浸るようになれば、今度はそこで事実上の教育を受けることになる。

危険な行為を実行しなければダサい、反社会的な行為に踏み切る者ほど度胸があり格好いいといった、一般社会では明確に否定される価値基準を、仲間から認められるために少しずつ内面化していくのである。

こうした連鎖を断つ試みの一つが、刑務所内で行われている治療共同体、TC(Therapeutic Community)だ。

TCでは、受刑者を単に指導される対象として扱わず、共同体そのものを回復のために利用する。参加者が自分の経験や感情を語り、他者の話を聴き、互いに意見を返す。そこで生じる人間関係も含めて、自分の価値観や行動を検討する材料にするのである。

実際、その効果を示す研究もある。毛利真弓・藤岡淳子による「刑務所内治療共同体の再入所低下効果」では、罪種や年齢、再犯リスクなどを統計的に調整したうえで比較すると、TC受講者148人と非受講者148人の刑務所への再入所率は、9.5%対19.6%で、統計的に有意な差があった。