原作の世界観を崩さないという信頼感

また、映画化の製作過程においては、タレント声優や劇場版主題歌を入れず、声優や監督、プロデューサーの劇場イベントも一切行わないなど、映画業界の慣例や商習慣にとらわれず、徹底したファンファーストを貫き、原作の世界観の純度を落とさなかった。その結果の大ヒットぶりからは、ファンと作品が稀に見る強い絆で結ばれていることがわかる。

映画公開手法でいえば、『名探偵コナン』は王道だが、『ちいかわ』は正反対を行く異端だ。そんな両作が近しい興行収入で“つばぜり合い”を繰り広げているのは、興味深くもある。

特典第3弾も、コアファンのリピート頼み

現時点で両作は、100億円までの興行ペースがほぼ同じだが、内実を見ると違いがある。

『ちいかわ』は、封切り当初の話題性が落ち着きつつある2週目以降、興行も同様の流れを見せた。そこから数字を牽引しているのは入場者特典だ。すでに第1弾の「チャームミニフィギュア」、第2弾の「ボンボンドロップシール」、第3弾「プルバックカー『ごきげんセイレーン♪』」までの特典が配布され、とくに2〜3回目の特典で数字を押し上げていることからは、新規層の流入がひと段落し、コアファンのリピート鑑賞に頼るターンに入っていることがうかがえる。

『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』のパンフレットと入場者特典
筆者撮影
『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』のパンフレットと入場者特典第1弾

『コナン』は追加特典を出さない

一方、基本的にグッズなどの特典配布を行わない『名探偵コナン』は、初回の限定デジタルイラストの1回のみ。ファンにリピート鑑賞を促す特典商法に頼らずに、100億円まで『ちいかわ』よりハイペースで数字を積み上げた作品力とファン層の太さがある。

つまり、『ちいかわ』が『名探偵コナン』を超えるかは、この先の特典次第になると推測される。もちろん、いまなおさまざまな話題が飛び交うなか、再び大きな風が吹く可能性もある。しかし、現状は特典が興行のエンジンになっている。

ちなみに、昨年の劇場版『鬼滅の刃 無限城編 第一章 猗窩座再来』は、通常上映特典と限定上映特典をあわせて20回前後実施していた。もし『ちいかわ』がそこまでやれば、『トイ・ストーリー5』も『名探偵コナン』も『ズートピア2』(155億7000万円)も超えて、今年のNo.1ヒット映画になるかもしれない。