雇用を守るためなら、賃金は安くてもいい
日本では、価格を動かせないことを前提に、賃金だけが企業内で調整される構造が固定化されてきた。その結果、コストが上昇しても価格に反映されにくく、賃上げは企業の負担増として扱われやすくなるため、人手不足が生じても賃金が上がりにくくなる。
3つ目の理由は、賃金抑制が、雇用維持を優先する制度的・政策的選択のもとで、社会的に正当化されてきたことにある。日本では長らく、「雇用を守るためなら賃金を抑えるのはやむを得ない」という考え方が広く共有されてきたし、今日でもそれは大きく変わらない。
バブル崩壊後の長期停滞のもとで、失業者を増やさないことが最優先課題とされ、賃金抑制は雇用維持のための合理的選択として受け止められてきた。その結果、賃金は柔軟に動かせる変数として扱われてきた。
実質賃金が長期低下する日本の末路
賃金を調整弁とする方法は、今日の視点から見れば望ましくない選択に映るかもしれない。
しかし当時の状況では、雇用を維持し、事業を継続させ、経済・社会の安定を守る合理的な対応として広く共有され、制度、慣行、労使関係、そして社会的合意のもとで選択され続けてきた。
その結果、日本では交易条件悪化の負担は、価格や雇用の急激な変化としてではなく、賃金の抑制として引き受けられてきた。危機は、目に見える形であらわれず、賃金が上がらないという形で日常のなかに埋め込まれていった。
短期的には安定を得られたが、それは負担を消したのではなく先送りしたにすぎない。その帰結が、投資の停滞と成長余地の縮小、そして実質賃金の長期低下として、現在にも残っている。
(※1)Morsy, H. and Jaumotte, F. (2012) "Determinants of Inflation in the Euro Area: The Role of Labor and Product Market Institutions", IMF Working Paper 12/37.
International Labour Organization (2023) A Review of Wage Setting Through Collective Bargaining, Geneva: ILO.
Bates, C., Bodnár, K., Healy, P. and Roca, I. L. M. (2025) "Wage Developments During and After the High Inflation Period", ECB Economic Bulletin, Issue 1/2025.
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