ロシアが北海道を攻める可能性は低いが…

現時点で、ロシアが北海道占領を具体的な国家目標としていることを示す公開証拠もない。

だから、「ロシアが北海道に攻めてくる」と煽るべきではない。

しかし、逆の思考停止も危険だ。

「そんなことはあり得ない」と最初から可能性を排除することの危険性こそ、ウクライナ戦争から学ぶべきことだからである。

さらに重要なのは、ロシアは北海道を実際に侵攻しなくても、中国を軍事的に助けることができるという点だ。

想像してほしい。

台湾海峡で重大な危機が発生する。

中国軍が台湾周辺に大兵力を展開し、南西諸島周辺でも活動を急激に活発化させる。

日本政府は当然、沖縄、九州、西日本方面へ警戒監視能力や航空戦力を集中せざるを得ない。

その瞬間にロシアが北方領土とオホーツク海で大規模演習を開始したらどうなるか。

ロシア軍機が北海道周辺へ接近する。

艦艇が宗谷海峡を相次いで航行する。

千島列島でミサイル部隊が展開する。

爆撃機が飛来する。

日本政府はそれを「単なる演習」と断定できるだろうか。

ウクライナ侵攻を経験した現在、それは難しい。

結果として日本は、北海道の防衛力を南西方面へ自由に移動できなくなる。

中国の習近平国家主席
2026年8月18日、北京の人民大会堂にて、中国の習近平国家主席(写真=Presidencia de la República del Ecuador/PD-author-FlickrPDM/Wikimedia Commons

ミサイルも兵士も使わず中国を助けられる

つまりロシアは、一発のミサイルも北海道に撃ち込まず、一人の兵士も上陸させずに、日本の戦力を北に拘束できるのである。

これこそ、中国にとって大きな戦略的利益となる。

中国の習近平国家主席がプーチン大統領に「日本の北側から圧力を掛けてくれ」と頼んだのではないか――そんな疑念さえ抱きたくなる。

ロシアの対中依存は数字のうえでも著しい。2023年、ロシアの貿易総額に占める中国の割合は侵攻前から倍増して約40%、輸入にいたっては52%に達した(防衛省防衛研究所『中国安全保障レポート2026』第1章より)。

しかし、依存は命令関係を意味しない。防衛研究所の分析は、ロシアが中国の意向と異なる危険な行動を現に起こしてきたことを指摘し、対中依存ゆえに中国の言うとおりに動くという理解は成り立たないとしている。

そもそも秘密会談で具体的な役割分担を決めなければ、戦略的協調が成立しないわけではない。互いの利益を理解し、それぞれが自国の利益に従って行動した結果、相手を助けることは十分にあり得る。

まして中国とロシアは、すでに爆撃機の共同飛行を繰り返している。

そして日本にとって厄介なのは、むしろこちらである。北で動く相手を、中国ですら抑えられないということだからだ。