短歌も詩も小説も「次の一手」を考えるのが楽しい
「あなたの30代はどうだった?」。そう聞かれたら、何と答えるだろう。
「30歳になったとき、もう一回本当にやりたいことをしようと思った。30歳ぐらいって、どうやって生きていくか、もう決めざるをえない段階が来ますよね、人生で」と語るのは、著者の竹中優子さんだ。
1982年、山口県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。2016年に「輪をつくる」50首で第62回角川短歌賞、22年に第一歌集『輪をつくる』で第23回現代短歌新人賞を受賞。同年、第60回現代詩手帖賞を受賞。24年、「ダンス」で第56回新潮新人賞を受賞、第172回芥川龍之介賞の候補となる。
福岡在住で会社員でもある竹中さんは、デビュー作の小説『ダンス』で、2024年上半期・第172回芥川龍之介賞の候補となった。
本書は職場の先輩「下村さん」と主人公との関係性を軸に、ゆるやかに進んでいく物語。欠勤を繰り返す三人の同僚がいて(実は三角関係)、そのフォローに追われる主人公が「今日こそ三人まとめて往復ビンタをしてやろう」と心に決めて出社するシーンから始まる。淡々とした日常生活が描かれているように見えて、ユーモラスかつ緊張感のあるセリフや独特のリズムが魅力的だ。そして、見せ場は物語の後半。約15年ぶりに再会した主人公に、下村さんが「それで、どうだった。あなたの30代は?」と投げかける。
『ダンス』の世界には、歌人でもある竹中さんの経験が生きている。短歌を始めたのは、仕事が忙しくて創作活動から離れてしまっていた20代のとき。短歌なら通勤電車の中でも詠め、小説にくらべて投稿もしやすいため、働きながらでも細々と続けられた。そして30歳を迎えた頃、新人賞などへの応募に真剣に挑戦し始める。
「真面目に、これからどう生きようか考えました。20代は平均点を取ることに全力を注いでいたのですが、これで死ぬまで行くのはちょっと違うなと。これからはその労力を自分がやりたいことに注ごうと決めたんです」
30代になって「受験生みたいに、本気で」創作活動に取り組んだ竹中さんは、16年に角川短歌賞を、22年に現代詩手帖賞を受賞。そして24年に本書で新潮新人賞、さらに芥川賞候補と、着実に創作のステージを広げている。
「短歌や詩では、定型や言葉の飛躍の力を借りて、想像もしていなかった発想が生まれる。その楽しさに気づいたから、小説もそんなふうに、想定外の展開が生まれればいいなと思いながら書いています」
歌人、詩人、そして小説家としてのデビュー。会社員を続けながら三刀流で創作活動をするうえで、苦労はないのだろうか。
「できないことがあっても、次の一手を考えるのが好き。慌てずに、むしろ分析するのが楽しいんです」
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