婚家に縛られた女性たちが織り成す介護ミステリ
人間の醜い部分から目をそらさない作風で知られる著者が、「介護」をテーマにした新作を発表。これは期待せざるをえない。
小説家。1973年、広島県生まれ。2007年、「聖職者」で小説推理新人賞を受賞。09年には、同作を収録する『告白』が本屋大賞を受賞した。12年「望郷、海の星」で日本推理作家協会賞短編部門、16年『ユートピア』で山本周五郎賞を受賞。
主人公は夫の母と同居する中年女性、美佐。事故死した両親の代わりに自分を育ててくれた叔母が認知症になり、一人暮らしの家がゴミ屋敷になっていると連絡を受け、高校3年間を過ごした町に20年ぶりに帰ってくる。長年、帰れなかった理由は、「主婦は家にいて家族に尽くすもの」「実の親でもないのに、会いに行く必要はない」という考えの婚家に縛られていたからだ。
やがて美佐は叔母を施設に入居させ、ゴミ屋敷の片づけに着手する。そこで発見したあるものから、叔母の人生の前半――人生を小説にたとえるなら上下巻の「上巻」――が明らかになっていく。鍵となるのが1980年代に赤と緑の表紙で大ベストセラーとなった小説だが、そのタイトルは本書で確かめてほしい。
それにしても、登場する姑たちの憎らしさといったらどうだろう。「ぞうきんの使い方も知らないの?」、ちょっとおしゃれをすれば、「出かけられない私へのあてつけ?」。頼りの夫は、「男に母親の下の世話はできないよ」と臆面もなく言い放つ。このリアルさ、まさか作者の実体験だろうか。
「そう思われそうですが、私はまだ介護の経験はないんです。夫の親の介護が始まってしまったら、長男の嫁であり、夫の実家の徒歩圏内に住んでいる私の場合、創作ではなく実体験と受けとめられかねない。だから『書くなら今しかない』と思いながら書きました」と湊さんは語る。
「こんなこと姑に言われたら腹が立つだろうな」「もしも旦那がこんな態度をとったら最悪」と想像して書いたそうだが、ある年齢以上の既婚女性なら、似たような経験は誰しもあるはずだ。
「嫁と姑って、結婚したときから上下関係ができていますよね。自分の親なら育ててもらった恩があるけれど、夫の親には結婚の段階では何一つお世話になっていない。それなのに『あなたの愛する人を育ててくれた人ですよ、恩を返しなさい』という意識になるのはおかしいですよね」
殺意とは、虐げられた弱者が追い詰められた挙げ句、抱くものでもある。一歩間違えば罪を犯しても不思議ではない女性たちだが、連帯することで事態は変わっていく。
Care〈ケア〉の重荷は世代を超えて女性たちを縛るChain〈鎖〉となり、ついにCrime〈犯罪〉を招く――。介護にまつわる「C」のスリルをぜひ堪能してほしい。
※本稿は、雑誌『プレジデント』(2025年5月2日号)の一部を再編集したものです。
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