レース名を伏せた正月の意見広告
2022年元日。正月早々、全国紙に挑戦的な意見広告が躍った。
わたしたちは、
何度でも起き上がる。
2021年1月。
レースから、アシックスのシューズが
姿を消した。
たとえ何度負けようとも、
わたしたちは前を向く。
前に進むことは、苦しいことの連続だ。
誰よりも真剣に、走りと向き合う。
負けっぱなしで終われるか。
BEAT YOUR BEST.
打ち破れ、自分の限界を。
レース名は明かされていない。しかし、「2021年1月。レースから、アシックスのシューズが姿を消した」と読めば、多くの人が「ああ、去年の箱根駅伝のことか」と察しがつく。
負けた相手にも触れてはいないが、何度もアシックスに苦汁を飲ませた相手がナイキであることは明白だ。
読者の認識を頼りに、いわないことでメッセージを伝える「沈黙の修辞」というべき広告表現である。
感情表現の先の真のターゲット
このご時世、日本企業のコーポレート広告といえば、「環境」「共生」「感謝」「絆」などといった前向きな、悪くいえば、当たり障りのない語彙でまとめられるのが通例だ。そこに、「負ける」「苦しい」「諦めない」といった感情が織り込まれることは、普通はありえない。
さらに、次の一行は企業としての思いが爆発していた。
「負けっぱなしで終われるか」
広告を掲載する新聞各社の営業部門からやんわりダメ出しが入っただろうことも、想像がつく。それを承知のうえで、なぜアシックスは剝き出しの感情を広告に載せたのか。
この広告のほんとうのターゲットが、アシックスの社員だったからだ。
廣田(*1)がいう。
「この広告はC-PROJECT(*2)発ではなく、マーケティング部門からの提案です。ずいぶん挑戦的なコピーだな、というのが第一印象でしたね」
打倒ナイキを実現し、アシックスをもう一度世界の舞台で戦い抜くブランドにする、という覚悟はここに至って、C-PROJECTからマーケティング部門、さらには会社全体へと、静かに、しかし確実に広がっていた。
*1 廣田康人氏。2018年3月、アシックス代表取締役社長COOに就任。2024年1月から代表取締役会長CEO。
*2 2019年に廣田が始めた社内プロジェクト。アシックス創業者・鬼塚喜八郎の言葉「まずは頂上(Chojo)から攻めよ」による「頂上作戦」の令和版。

