中国当局が積み重ねてきた「成功体験」

参考になりそうな前例の一つが、2020年6月30日に制定された「香港特別行政区国家安全維持法」です。反政府活動の防止・処罰や、中央による香港への統制強化を目的としたこの法律には、「民族団結進歩促進法」と同様に域外適用に関する規定がありました(第38条)。

この規定が発表されたときには、「これで香港は終わった」「もう香港には行かない」という声も聞かれました。一方で、「経済都市であり国際金融センターである香港の、中国にとっての『利用価値』が低下したと結論するのは早計である」と指摘する研究もあります(注7)

「『域外適用』の規定を設けて国際的に強い批判が起こっても、それは一時的なものである」「一定時間が経過すれば、批判は起こらなくなり、委縮効果だけが最終的に残る」――。そう中国当局は考えているようにも思えます。実際、施行から6年を経た今、表面的には施行前とあまり変わらない香港の日常があり、そうした「成功体験」が、「民族団結進歩促進法」施行についても中国当局に自信を持たせているものと思われます。

習近平にとっては「不敬罪」なみの重要性?

なお、批判の強い「域外適用」の規定ですが、実はかつて日本の刑法第74条に規定されていた「皇室に対する不敬罪」にも、域外適用が定められていました。

先に見てきた通り、「中華民族」という言葉は政治性を持ち、また中華民国時代から存在した、中国にとっても一定の歴史がある重要な言葉です。

共に域外適用が定められている点から考えれば、中国にとっての「中華民族」という概念は、大日本帝国にとっての「皇室」と同様の、「絶対に尊重されなければならないもの」と捉えられているのかもしれません。

(注1)可児弘明=国分良成[ほか](編著)『民族で読む中国』朝日新聞社、1998年、8頁。
(注2)高原明生=丸川知雄[ほか](編)『東大塾 社会人のための現代中国講義』東京大学出版会、2014年、33頁。
(注3)可児弘明=国分良成[ほか](編著)『民族で読む中国』朝日新聞社、1998年、9頁。
(注4)南野善三郎(訳)『チベット入門』鳥影社、1999年、104頁。
(注5)『中華人民共和国全国人民代表大会常務委員会公報』(2026年2号)中国・全国人民代表大会常務委員会弁公庁、2026年、244~245頁。
(注6)『中華人民共和国全国人民代表大会常務委員会公報』(2026年2号)中国・全国人民代表大会常務委員会弁公庁、2026年、245頁。
(注7)倉田徹=小栗宏太(編著)『香港と「中国化」 受容・摩擦・抵抗の構造』明石書店、2022年、71頁。

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