これは国外向けの「萎縮」狙いだ

そう考えれば、「国外の組織や個人に対しても法的責任を問える」という域外適用規定の存在も説明がつきます。中国の国外にいる団体に「これ以上、中国の民族問題について発言したら、中国に入国したときに逮捕されるかも」と思わせ(国外での法執行は現実的には困難ですが、中国への入国時に当局によって逮捕・訴追されるリスクは否定できません)、萎縮や抑止をうながすことに、「民族団結進歩促進法」の本当の目的があるのではないかと筆者は考えています。

施行日が2026年7月1日という、中国共産党設立105周年にあたる日だったことも、この理屈である程度説明がつきます。「民族団結進歩促進法」が中国国内の民族独立運動家に対するものではなく、中国国外向けのアピールなのだとすれば、まず中国でこのような法律が制定されたことを外国に知ってもらい、報道してもらう必要があります。そのためには、中国の他の法律とは異なり、公布から施行までに相当の間を置く必要が出てきます。どうせなら中国共産党設立105周年記念日に、「中華民族の団結をうたった法律が施行された」という形式にしよう、ということだったのではないでしょうか。

この意味では、日本を含む他国のメディアが「中国で危険な法律が制定された」と報じれば報じるほど、中国国外で中国の民族問題を指摘している者が委縮し、中国政府の思うつぼになると言えるかもしれません。

中国入国時のリスクは実際に上がるのか

日本人読者の方にとって一番気になるのは、「民族団結進歩促進法」施行後、中国入国時のリスクは上がるのかという点でしょう。

これまで本稿で述べてきたとおり、「民族団結進歩促進法」が施行される前から、中国では少数民族の独立に関係するデモ行為など、「民族団結を阻害する」行為は取り締まられてきました。この事実をふまえれば、これまでと「リスク」はそう大きく変わらないと言えるように思います。