中国独特の「法治」の考え方

そして、2つ目に挙げられているのが「法治」のためという理由です(注6)。民族問題の事務を執行するために、根拠となる法律があるべきだというロジックですね。習近平時代の中国では「法治」が非常に強調されており、中国当局が何らかのアクションを起こすときの根拠として「民族団結進歩促進法」を制定したという主張には、一定の説得力がありそうです。

これは恐ろしいことでもあります。中国の「法治」は、日本などが理解する「法治」とは異なり、「内容を実行する根拠を用意することで正当性を持たせる(たとえ悪法になったとしても)」という側面があります。「民族団結進歩促進法」もそれと同じで、民族独立を禁止する根拠を制定した上で、「法治」の名の下に民族独立運動を弾圧することが可能となったとも言えます。

制定の真の意図はどこに

とはいえ、筆者にとってはこれらの説明は説得力に欠けるように思います。「民族団結進歩促進法」がなかったこれまでも、中国では民族独立運動は弾圧されてきたからです。

「民族団結進歩促進法」のように、国外の組織や個人に対しても法的責任を問える(域外適用)という規定を持つ法律を制定すれば、中国以外の国家から強い批判がなされるのは明らかです。さらに域外適用の規定があるからといって、現実的には中国当局が外国の領域内で自由に捜査や逮捕などの法執行を直接行えるわけではありません。

ならばこれまでと同じように、既存の法律を組み合わせて民族独立運動を弾圧していればよかったはずです。むだに外国からの批判を呼んだ「民族団結進歩促進法」制定は、中国当局にとって世紀の大失策とも評価できます。

「民族団結進歩促進法」制定の真の意図をはかるポイントは、その公布日と施行日にありそうです。中国の法律は、公布日即施行というパターンが非常に多くなっています(先に見た通り、2018年3月の改正憲法も公布日即施行となっています)。そんな中、「民族団結進歩促進法」は2026年3月12日に公布され、その約4カ月弱後に施行と、公布日と施行日の時間差が大きくとられています。

ここから言えそうなのは、「民族団結進歩促進法」は民族独立の動きを鎮圧/弾圧することが目的と言うより、「中国の民族独立を促すような発言をするんじゃない!」という主張を国の内外にアピールするためのものではないのか、ということです。