不本意な異動をした20代男性の変化

②不本意な状況の中で、何を見つけられるか

もう一つ、印象に残っている20代後半の男性社員Bさんのケースをご紹介します。Bさんは、上司と折り合いが悪く、仕事にやりがいを感じられないままメンタル不調の兆しが出始めたため、産業医面談を受けながら、社内異動制度を使って異動を決めました。

ところが、異動が決まった後で、会社の都合で「異動の前に、別の部署で3カ月だけ働いてほしい」と頼まれてしまいました。断りきれずに引き受けたその仕事は、国内の業務を海外に移管するための実務で、正直なところ自分のキャリアにプラスになる感触もなく、面白みも感じられないものでした。

定期的に面談に来ていたBさんは、当初この状況について否定的な言葉ばかりを口にしていました。しかし何度か面談を重ねる中で、Bさんの語り口が少しずつ変わっていきました。

「この3カ月だけの仕事は決して楽しくはない。ただ、海外とのやりとりの量は、これまでの仕事で一番多い。だから、この期間を英語のトレーニングの集中期間と考えるようにした」「残業はそれほど多くないから、趣味のランニングでタイム更新を狙ってみよう」「3カ月後の異動を見据えて、勉強の時間もつくれるかもしれない」、そんな言葉が出てくるようになったのです。

置かれた状況の中で自分は何を得られるか

この間、Bさんの業務状況そのものは好転していません。仕事の中身は相変わらず面白くありません。異動までの3カ月という期間も変わっていません。変わったのは、Bさんが「この状況の中で、自分は何を得られるか」という考え方をし始めたことでした。

オフィスで電話をするビジネスパーソン
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働く人自身が、自分の仕事の意味づけや進め方、周囲との関わり方を自分なりに組み替えていくことを、組織心理学では「ジョブクラフティング」と呼びます。与えられた仕事の枠組みは変えられなくても、仕事の捉え方や、業務の合間の使い方であれば、多くの場合、本人の裁量で変えられる余地が残っています。Bさんが行っていたのは、まさにこの「業務のクラフティング」でした。

実際の産業医面談で私はよく社員に、「どうしてこの会社で働くの? どうしてそんなしんどい思いまでしてこの部署で働くの?」と尋ねることがあります。さっと答えられる明確な答えを持っている人の方が、安定して働き続けられると経験上断言できます。

Bさんは、最初はこの3カ月間の仕事に前向きではありませんでした。不満を口にしていました。それは自然なことです。しかし、Bさんはそこでとどまらず、「この状況から何を得られるか」「何を身につけられるか」という問いを自分に投げかけ、この嬉しくない状況の中でも、得られるものを見出すことができました。ここが、メンタルを消耗する人と、その状況を糧に変えていく人の違いだと私は思います。