アマゾンは「ベゾスのための計画経済」
――一方で、斎藤さんは、市民参加型の経済計画にAIを利用する可能性も提唱しています。
AIが役に立つかといえば、役に立つのは当たり前です。
ただ、AIの開発や運用のルールを、サム・アルトマンやイーロン・マスクのような一部の人が握ってしまうことは非常に危ない。
そもそもAIが学習している内容は、私たち市民から吸い上げられたものです。その利益は、本来、私たちにも還元されるべきです。運用方法にも、市民がもっと関与できる社会に変えていかなければならない。
そのイメージを示すために、『人新世の黙示録』では計画経済が必要になると書きました。
計画経済と聞けば、ソ連時代の非効率な五カ年計画を官僚がつくり、現場に押し付けるようなシステムを思い浮かべるでしょう。
しかし、今日の資本主義社会では、計画はかつてないほど大規模に行われています。最も分かりやすいのがアマゾンです。
翌日配送や当日配送を実現するには、どこでどのような注文があり、商品をどう配分するかを予測しなければならない。私たちが何に「いいね」をしたか、どの商品をどれだけ比較したかというデータを集め、分析し、計画を立てている。
それは五カ年計画ではなく、毎時間変化する、非常にダイナミックで精度の高いシステムです。
これを、新しい計画経済のモデルとして捉えてみてはどうか。ただし、そのまま導入すればいいという意味ではありません。
現在のアマゾンの計画経済は、「ベゾスのための計画経済」です。国民のためでも、ユーザーのためでもない。ベゾスがいかに儲かるかという仕組みになっている。
独占資本主義の下で使われている計算力やデータ収集力、計画する力を民主化しようということです。
プラットフォームを、市民、ユーザー、労働者が意見を表明し、プライバシーを守れる形で運用する。政府が投資するのであれば、単に補助金をばらまくのではなく、市民や第三者によるチェックを入れる。
企業に対しても、「資金を出す代わりに、2050年までの脱炭素ロードマップを示してください」「実行しないなら、その分、炭素税を課します」といった、あめとむちを組み合わせた計画を立てる。
そうすれば、環境や市民の声が反映されるデジタル経済を開いていけるのではないか。それが今回の提案です。
暗黒の中で、どちらの道を選ぶのか
――著書では、「暗黒社会主義」という新たな概念を提示しています。
単純に言うと、未来がやばいので「暗黒」なわけです。
暗黒の時代を資本主義に任せれば、テクノファシズムになる。資本主義の下で暗黒時代に適応すれば、分断と選民の社会になります。
希少になっていく資源やリソースを一部の人が買い占め、多くの人は切り捨てられる側になる。そして、ますます不安になり、分断されていく。
気候崩壊が進む以上、良くない未来に向かっていくこと自体は、もう避けられません。
その暗黒の中で、資本主義的な道を選ぶのか。それとも、エッセンシャルなものを優先し、使用価値を基礎とした経済に転換するのか。後者は社会主義です。
資本主義的な暗黒時代への適応を選ぶのか、社会主義的な暗黒時代への適応を選ぶのか。私たちの前には二つの分岐点がある。後者に進むことが、命や人権、民主主義を守る道です。
ただし、それは、かつてのリベラリズムが描いたような明るい進歩の歴史ではありません。
悪くなっていく未来の中で、どうすれば私たちが共に生き延びられるのか。その視点から、社会主義を定義し直すということです。
高齢化が進み、経済成長が停滞し、災害の被害が増え、国際的な緊張も高まる。そのとき、社会保障にお金を使うのか、ダムや防波堤などの災害対策に使うのか、国防費に使うのか。
すべてを守ることは難しくなる。住めなくなる地域や、これまでと同じ医療を提供できなくなる地域も出てくる。
ある種のトリアージを行いながら、残された場所でどう生き延びるかを考えなければならない。
ただし、その選択を市場に任せることは非常に危険です。市場に任せれば、儲かるか、儲からないかで決まる。「東京だけ残そう」という話になりかねません。
そうならないように、プライベートジェットのような、本質的ではない過剰なサービスをなくし、残された資源を医療や運送業に回す。
そうしたことを考えなければならない。それが「暗黒」たるゆえんです。
――人々が仕事に追われ、スマートフォンや配信サービスに注意力を奪われる中で、社会を変える主体を生み出すことは可能でしょうか。
イーロン・マスクたちは、それを狙ってやっているわけです。普通にしていれば、私たちにチャンスはない。
ただし、トランプを支持する労働者とテック億万長者が、全く同じことを考えているわけではありません。
「今までの社会を大きく変えなければ、自分たちの生活もままならない」という認識では一致している。けれども、「テック君主制でいい」という話に、労働者たちは必ずしも乗ってこないと思います。
ここに、くさびを打つチャンスがある。
現在は、生活に不安を持つ人々が、反動的、保守的な運動に飲み込まれている。しかし、彼らは政治に無関心なわけではない。社会を変えたいと思っている人はいる。
「今のままでは駄目だ」というところまでは共有できる。そこにはチャンスがあります。
そのエネルギーを、資本主義的な道ではなく、社会主義的な道へと振り向けていく。そのためのビジョンを提示することが、『人新世の黙示録』の目的です。
本インタビューの後編は、8月10日(月)に掲載予定です。
本記事は、ニューズウィーク日本版の無料会員向け企画「PREMIUMインタビュー」シリーズの一編です。国内外の識者やキーパーソンへのインタビューを、今後も随時お届けします。


