ブラインドサッカーの教訓
大木は最後に「交通事故死をゼロにするためのアイデア」を教えてくれた。これは今回、わたしができる限り、ユーザー、販売担当者に聞いた質問だ。
交通事故死は必ずゼロにできると信じることができればアイデアは生まれてくる。自動車産業の関係者は多くの情報を持っているが、その情報が邪魔をして、かえって、交通事故死がゼロになるはずがないと思っているところがある。
大木は「思い付きです」と言いながら、交通事故死をゼロにするためのアイデアを話してくれた。
「私、研修があって、ブラインドサッカーを体験しました。うちの会社の研修でした。健常者が目隠しをしたまま、ボールをパスしたり、『こっちだよ』と所在を教えてパスを受けたりする。その時、思ったんですよ。見えない人にボールの所在を教えるのってすごく難しい、と。『僕の足元にボールがあります』と言っても通じない。あなたが正対している私の足元にあって、2mくらい離れてますとか言わなきゃいけない。
お互い、目が見えないから、相手への伝え方というのがすごく大事。しかも、相手の気持ちを考えてあげることも必要なんです。普通、運転していると自分のことばかり考えているでしょう。安全運転をしようとか。でも、もっと周りを見るべきなんです。前を走っている車の挙動がおかしかったら、離れるとか、通報するとか。周りを見ることが大事で、あいおいニッセイ同和損保さんのテレマティクス保険にも、周りを見る視点を入れたらいいんじゃないかと思う。
要は思いやりの気持ちを持って運転すれば事故は自ずと減っていくのかなって思います。オレがオレがじゃなくて譲り合いを心がけるのが安全運転だと思うんです」
スピードを時速30kmにすればいいのだが…
「たとえば、あおり運転ってありますよね。あおる方が悪いんですけれど、あおられる方にも原因があると思います。無理やり入ってきたりとか、スピードが遅すぎるとか。自分のことばかりを考えるのではなく、周りを見ること、周りの気持ちになることなんですね。
車の交通事故の原因を見ると、やはり速度超過なんです。スピードが出ているとぶつかって被害も大きくなる。たとえばの話、世の中の車が全部、時速30kmだったら、たぶん亡くなる方はいらっしゃらないと思うんです。でも、それでは物流が壊れてしまうかもしれない。どんな安全装備が付いたとしても、スピードが出ていれば被害は大きくなります」
大木が言った「全車が時速30kmにする」を聞いた専門家は夢物語だと言うだろう。しかし、交通事故死をゼロにするには現実の延長で考えても達成はできない。現実を忘れ、現実とは少し離れたところからの提言でなくては交通事故死をゼロにすることはできない。



