40年磨いたファウンドリ専業
台湾の積分は、韓国とは異なる。TSMCという圧倒的な中核企業を持ちながら、大学、工業技術研究院(ITRI)、サイエンスパーク、ファブレス、設計支援、IP、製造装置、素材、先端パッケージングまでを結ぶ「生態系型集中積分」である。
TSMCは1987年、製造に特化するファウンドリ専業モデルを打ち立てた。自社ブランドの半導体で顧客と競合せず、世界中の設計企業を顧客にする。このモデルを約40年にわたって磨き続けた結果、顧客の設計情報、プロセス技術、量産ノウハウ、サプライヤー、技術者が台湾を中心に集積した。
TSMCの2025年の開示によれば、顧客は534社、提供するプロセス技術は305、製造した製品は1万2682品目に及ぶ。年間生産能力は12インチ換算で1700万枚を超える。重要なのは数字の大きさだけではない。多数の顧客、多様な製品、設計資産、量産データがTSMCへ集まり、その蓄積が次の顧客を呼ぶ循環である。
さらに台湾は、先端パッケージングを含む3DFabricの連携網、南部の半導体回廊、2024~2033年の「晶創台湾方案」など、企業単体ではなく生態系全体の密度を高めている。TSMCが「積分器」となり、分散した専門能力を世界市場の需要へ束ねる。
韓国が巨大企業内部へ資産を集中するのに対し、台湾は中核企業の周囲に企業群と公的機関を集中させる。形は違っても、どちらも需要、技術、人材、資本を市場へ変換する明確な中心を持つ。
強さが加速度に変わらない
日本にも膨大な積分がある。しかも、その質は高い。
半導体製造装置、シリコンウエハー、フォトレジスト、洗浄、研磨、検査、精密部品。長年の研究開発と顧客との擦り合わせを通じて、世界シェアの高い企業が多く存在する。電子部品全体でも日本企業は大きな世界シェアを維持する。これは簡単に再現できない国家的資産である。
しかし、日本の積分は多数の企業と工程に分散する「要素技術型分散積分」である。個々の企業は強くても、それらを先端半導体の設計・量産、データセンター、AIモデル、アプリケーションまで束ね、一つの市場戦略として動かす中心が弱い。
分散積分には大きな長所がある。多様性があり、一社の失敗で全体が崩れにくい。特定用途に依存せず、複数の顧客と市場へ供給できる。改善を積み重ねる現場の厚みもある。経済安全保障の観点からも、日本の装置・素材群は世界が依存する重要な資産だ。
だが、AIのように巨額の先行投資、顧客との共同設計、量産能力の急拡大が同時に求められる局面では、分散した強みが自動的に一つの加速度へ変わるわけではない。各社が個別最適で優れていても、国家全体としては需要の増分を取り込む速度が遅くなる。
日本に足りないのは要素技術ではない。分散した要素技術を、特定の成長市場に向けて束ね、需要、資本、人材、量産、サービスを連結する「積分器」なのである。

