脱水状態で引き起こされる「血栓症」
さらに恐ろしいのは、極度の脱水状態が引き起こす「血栓症」のリスクである。
断水や不衛生なトイレ環境を恐れた被災者は、無意識のうちに水分摂取を我慢してしまいやすい。大量に汗をかいているのに、肝心な水を飲まなければ、血液はドロドロになり、血管内で血栓(血の塊)ができやすくなる。これが脳の血管に詰まれば「脳梗塞」、心臓の血管に詰まれば「心筋梗塞」を引き起こす。
狭い車内で避難生活を送ることで発症する「エコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓症)」も、夏場の脱水環境下ではそのリスクが何倍にも跳ね上がる。
「暑さ」は単なる不快感ではない。被災者の体を内側から破壊し、持病を悪化させ、最終的に命を奪う「静かなる殺戮者」なのである。
避難所に関しては、さらに深刻な事態がある。「何かあれば避難所に」と思っている人は多いと思うが、それすら叶わないことが想定されているのだ。首都直下地震に際しては、膨大な数の避難者が想定されているものの、特に東京都区部においては深刻な避難所不足が懸念されている。
水やエアコンを用意してくれるわけではない
政府は2026年6月に改定した「首都直下地震緊急対策推進基本計画」で、安全なマンションでは自宅にとどまる「在宅避難」を基本とする方針を打ち出している。避難所ではなく、我が家で地震に、暑さに、また水不足やトイレ不足に備えねばならないのだ。
私たちは今、過去の震災の教訓だけでは太刀打ちできない「猛暑×巨大地震」という複合災害の可能性がある時代を生きている。
国の想定は、あくまで「起きうる最悪のシナリオ」をデータで示したものに過ぎない。現実の避難所に行けば、誰かが魔法のようにエアコンを効かせてくれて、冷たい水を配ってくれるわけではない。
これから私たちが個人レベルで身につけるべきは、「行政頼みを捨てる」という覚悟である。断水と停電が長期化することを前提に、飲料水だけでなく「体を冷やすための水や冷却グッズ」を大量に備蓄すること。人口が圧倒的に多い大都市での大震災は、能登半島地震や令和8年熊本地震よりも、ずっとシビアな環境となることも想定される。

