「学歴は心の一番奥に持っていればいい」

塾講師として教壇に立つようになって、山田さんは学歴について、あるひとつの実感を得たといいます。

「生徒は先生がどこの大学を出ているかを知りません。評価する基準は、学歴があってもなくても、みんな一緒なんです。それほど有名ではない大学出身の講師のほうが、評価が高い場合もあります。大学受験の指導では専門的な知識が必要になりますが、それは学歴の高さとはまた別の話なんですよね」

一方で、学歴が山田さんの虚栄心を満たす瞬間もあります。

「会社の人は、九大出身だと知ると、それだけで見る目が変わります。そういうところが評価の基準になるんですよね」

それでも、山田さんは自ら九州大学を卒業しているとは言いません。

「最終的に、『この人は九大卒なんだ』というバックボーンを知ってもらえれば、それでいいと思っています。いい大学を出たというのは、自分の心の一番奥に持っていさえすればいいんです。印籠じゃないけど、最後に出すものという感じですね」

九州大学伊都キャンパス
写真=iStock.com/iTraveller
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ようやく手にした「九大卒」という学歴は、いまは本人の宝箱の奥深くにしまわれているようでした。

筆者は、9浪して早稲田大学に合格して以降、「早稲田」という看板を、むしろ前面に押し出すことでキャリアを築いてきました。学歴を心の奥にしまい、それを最後の最後にしか出さない山田さんの生き方は、私とは対照的であると感じます。しかし、19年かけて追いかけた名前をあえて表に出さないという選択そのものが、山田さんにとっての一番のプライドの示し方なのでしょう。

生徒に伝えている教訓

山田さんは、生徒を指導する中で、子どもたちに意識的に伝えていることがあります。それは、「本当に好きなことを仕事にできたら、仕事で嫌なことがあっても全く苦にならない」ということです。

「塾講師を仕事としてやっているので、主に教えるのは勉強面です。勉強によって得られるものももちろん大きいけど、本当に好きなことを仕事にしたら、どんなにつらいことがあった時も仕事が嫌にならない、と私自身の経験から話しています」

九州大学在学中から「とても楽しくて、のめり込んだ」と語る山田さんの塾講師としてのキャリアも、かつての浪人時代を上回る年数となりました。