関税をかければ、中国もダメージを受ける

中国はこれまで、重要物資の輸出を外交上のカードとして使ってきた。2010年の尖閣諸島沖の漁船衝突事件では対日レアアース輸出が事実上滞り、2023年にはガリウムやゲルマニウム関連品目を輸出許可制にした。

しかし今回は立場が逆だ。中国が必要としている日本製ジクロロシランについては、輸入を止めるのではなく、反ダンピング調査を選んだ。

反ダンピング調査の結果、日本産のジクロロシランが不当に安く販売され、中国国内の産業に損害を与えていると認定されれば、追加関税が課される可能性がある。仮にそうなれば、日本メーカーだけでなく、日本産ガスを使う中国の半導体工場もコスト増を背負う。

それでも中国が調査に踏み切った背景には、輸入を続けながら国内メーカーを育成したいという事情があると考えられる。国内需要44万キログラムに対して国内生産は14万キログラム。輸入の約8割を日本製が占めている。対日強硬姿勢を示す習近平政権も、日本からの輸入をすぐには止められない。「頭を下げて買うしかない」現実の正体である。

2014年6月27日、天安門広場の天安門
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ただし、中国がジクロロシランを「作れない」わけではない。唐山三孚のように量産する企業はすでに存在する。正確に言えば、「最先端の半導体工場が要求する純度と安定供給を、同じ水準では実現できない」のだ。

半導体材料では、生産能力だけでなく、純度や品質の安定性も重要になる。商務部が調査対象としたのは「純度99%超」の製品だが、半導体グレードの特殊ガスには、さらに高い純度と、厳格な不純物管理が求められるからだ。

中国にはない「日本メーカーの強み」

日本勢の強みはガスそのものの純度だけではない。

原料の精製、容器の管理、充填、輸送、納入時の品質保証まで、安定した品質を維持するには工程全体の管理が必要になる。半導体の製造現場では、ごく微量の不純物やロットごとの品質のばらつきが歩留まりに影響する。

さらに一度採用した材料を別メーカーの製品に切り替えるには、品質や製造条件を確認しなければならない。長年にわたって顧客と仕様をすり合わせ、安定供給の実績を積んできたこと自体が、日本メーカーの強みになる。

精製、品質管理、安定供給、顧客とのすり合わせ。日本勢の優位は、長年の製造現場で蓄積してきた「工程知」にある。中国企業が生産能力を高めても、この蓄積まで短期間で置き換えるのは容易ではない。