「世界シェア7割」を日本が握る
近年、ジクロロシランの重要性はさらに高まっている。
メモリーでは、記録層を数百段まで積み上げる多層化が進んでいる。層が増えるほど成膜の回数は増え、より高い精度が求められる。AIサーバー向けの高性能メモリーの需要が伸びるほど、このガスの需要も増える。
そのジクロロシランの供給で大きな存在感を持つのが、日本企業である。東京新聞は、日本勢の世界シェアが約7割に上ると2026年1月7日に報じている。
化学工業日報の記事によると、商務部が公表した調査対象メーカーには、シリコンウエハー世界最大手の信越化学工業をはじめ、日本エア・リキード、三菱ケミカルグループが並ぶ。調査対象となったのは純度99%以上の製品で、中国側の輸入企業には大陽日酸の現地法人も含まれている。
日本企業は、フォトレジストやシリコンウエハーなど、複数の半導体材料で高い世界シェアを持つ。なかでもジクロロシランの約7割という数字は際立つ。石油のような天然資源ではなく、精製技術や品質管理、安定供給を長年積み重ねて築いてきたシェアだ。
「中国が使う量の6割」は日本からの輸入
中国国内の数字を見ると、日本製への依存の大きさが浮かび上がる。
前出の化学工業日報の記事によると、今回の調査を申請した唐山三孚電子材料は2016年に設立され、2021年10月にジクロロシランの本格生産を開始した。公称の生産能力は年50万キログラムに達する。
一方、中国国内の需要は2022年の33万キログラムから2024年には44万キログラムまで増えた。数字だけを見れば、唐山三孚1社の生産能力だけで国内需要を賄える計算だ。中国にはほかにも洛陽中硅高科技などジクロロシランを供給する企業がある。
ところが、実際の国内生産量は14万キログラムにとどまる。足りない分は輸入で賄われ、2022年以降、その輸入量の約8割を日本製が占めてきた。中国国内メーカーが提出した申請書によると、2024年の日本からの輸入量は中国の需要全体の65.6%にあたる。中国は使う量の6割以上を、日本からの輸入で賄っている。
さらに、前出の新華社の記事によると、商務部報道官は、2022〜2024年に日本からの輸入量が増える一方、輸入価格は累計で31%下落したと説明している。中国側は、こうした輸入が国内産業に損害を与えた可能性があるとして調査に乗り出したわけだ。
前出の化学工業日報によると、2022年から2024年まで、日本産ジクロロシランには0%の協定税率が適用されてきた。国内需要の、6割以上を日本製が占め、関税の壁もない。その状況で、中国は日本からの輸入そのものを止めるのではなく、関税を課す可能性のある反ダンピング調査を選んだ。

