クリミアでは市民への販売が停止

ヴラドさん夫婦は近くのホテルに部屋を取り、交代で列に並んだ。一人がじりじりと車を前進させている間に、もう一人がホテルで仮眠をとり、シャワーを浴び、携帯を充電し、食事をとる。楽しいはずだった旅の途中、そんな生活が2晩も続いた。

不幸中の幸いだったのは、2日間を同じ列で過ごすうちに、ドライバー同士が助け合うようになっていったことだ。買い出しに行く者が周囲の分もついでに買い、代金はモバイル送金で精算する。ヴラドさんは列で出会ったドライバーたちと、「友達になった」と振り返る。

一方、割り込みが起きないようにと、交通警察官が出動する騒ぎにもなった。

今、ロシア全土で燃料危機が広がっている。メディアゾナは「燃料切れ」(Running on empty)と題し、(83ある連邦構成主体のうち)少なくとも56の地域で、燃料の販売制限が敷かれたと報じた。

うち18地域では地方当局が正式に給油制限命令を出し、域内すべてのスタンドに順守を義務づけている。制限内容は主に、1台あたり約30リットルの給油上限と、携行缶への販売禁止だ。残る38地域でもガソリンスタンドチェーンが自主的に上限を設けている。

ロシア紙コメルサントによれば、給油待ちの行列を避けるため全国のタクシー運転手の最大20%が営業を控えているという。

メディアゾナによると、こうした制限のなかで最も厳しいのは、ロシアが併合したクリミアとセヴァストポリだ。6月21日から一般市民への燃料販売が事実上全面停止され、給油できるのは緊急サービス、警察、公共交通、自治体職員に限られる。6月26日には「経済的問題に秩序をもたらすため」として、非常事態が宣言された。

モスクワ中心部のロシア石油最大手ロスネフチの給油所で、ガソリン購入を待つ車列=2026年6月30日(共同)
写真提供=共同通信社
モスクワ中心部のロシア石油最大手ロスネフチの給油所で、ガソリン購入を待つ車列=2026年6月30日(共同)

原油はあってもガソリンはない

世界有数の産油国であるはずのロシアで、なぜ燃料供給がこれほど逼迫するのか。

ガソリンやディーゼルは原油を採掘するだけでは調達できず、精製する工程が必要だ。精製施設がウクライナの攻撃で相次いで停止している今、地中にいくら原油が眠っていても、ガソリンは市場に届かない。

南シベリアのトゥヴァ共和国に隣接するハカシア共和国の住民は、ロシア独立系英字紙のモスクワ・タイムズに、「ガソリン代の高騰で車を売らざるを得なかった」と打ち明けた。「加工肉も果物も魚も今では贅沢品だ。ディスカウントストアで買えるものだけを買っている。それしか生き残る方法がない」という。

世界最大級の産油地帯、ハンティ・マンシ自治管区では、地中に膨大な量の原油が埋蔵されているにもかかわらず、多くのスタンドで販売制限が導入されている。

油田の街ラドゥジヌイの住民は、独立系ニュースメディア「ゴヴォリット・ネモスクヴァ」の取材に「ロシア市民として言わせてもらうが、こんなのはまったくのクソだ」と語った。「石油は耳の上まで溢れていて、貯めるところがないから油井を閉鎖しているのに、ガソリンがないとはどういうことだ」

南シベリアのトゥヴァ共和国では、一部地区でスタンドから燃料が消えた。モンゴルと国境を接するトゥヴァには鉄道が通っておらず、生活物資はすべてトラックか航空機で運ばれる。燃料高がそのまま、あらゆる生活必需品の値上がりに直結する。

モスクワ・タイムズによると、トゥヴァ共和国におけるガソリン価格は6月16日からの1週間で9.2%急騰し、1リットル平均90.63ルーブル(約190円。7月27日現在のレート、1ルーブル2.1円で換算、以下同)とロシア全地域の最高値に達した。