ガソリン不足でも戦争には賛成
燃料危機をもってなお、プーチン氏失脚の契機にはなり得ないとの見方がある。
39時間の行列に並んだ前出のヴラドさんは、長蛇の列を映した動画のBGMに、ソ連体制への幻滅を歌った楽曲『すべては計画通り』を使用している。
コメント欄では当局への皮肉と受け止める人もいたが、ヴラドさん本人の主張は正反対だった。彼はメドゥーザに、「当局は手がぬるすぎる。(ウクライナに対して)もっと強硬に対応しなければ、いずれ誰にも相手にされなくなる」と語っている。燃料危機の原因は戦争にあるとするのではなく、戦争の「やり方の甘さ」にあるとする主張だ。
この思考パターンは、ロシア社会に広く根付いている。ニューヨーク・タイムズは、多くのロシア人が国が困窮する現状について政府全般を批判しながらも、プーチン大統領は名指しで批判しない傾向があると論じている。
ただしナデジン氏は同紙に、「まさにプーチンがその政策で我々をここに導いた」と気づき始めるロシア人が増えていると語り、テレビで景気の好調ぶりを語るプーチン氏と給油待ちの長蛇の列という現実との乖離が続けば「疑念が湧いてくるだろう」と述べた。9月に控えるロシア議会選挙は、そうした不満の受け皿になりうる。
ストレスを募らせるロシア国民
生活に不自由が生じるようになったロシアで、国民の心情は決して良くない。
イルクーツクに住む26歳のサドヴニコワさんはニューヨーク・タイムズに、ガソリンの入手に奔走したことで「ひどく神経をすり減らし、くたびれ果てた」と振り返った。ストレスで翌日は丸一日寝て過ごしたという。いまはガソリンをなるべく節約しながら、「また底をつく前に次の供給が来ることを祈っている」という。
こうした混乱は複数の地域に波及し、政治問題化しつつある。同紙が取り上げたモスクワの政治アナリスト、イリヤ・グラシェンコフ氏は、リサーチノートで、「ガソリン不足はもはや経済問題に留まらない。当たり前だった日常を根底から揺さぶる深刻な危機に、政府がどれだけ対処できるかを問う試練だ」と指摘する。
CNNによると、レニングラード州のアレクサンドル・ドロズデンコ知事はテレグラムに、「パニックになる必要はない。かといって楽観しすぎるのもよくない」と記した。
スタンドに向かえば、いつでも5分もあれば給油できる。そんな常識が、戦時下のロシアで静かに崩壊しようとしている。


