「何を考えるか」を考えさせる

秋元は言葉を紡ぎ出す作詞家だ。こうしたレトリックが若い女子たちを感激させるだけでなく、仲間への嫉妬を未然に防ぎ、売れない子の不満の解消につながっている。「洗脳的アドバイス」によってメンバーの心をつかみ、心をつかむことで「君臨」しているということになる。

では、運営会社のスタッフたちに対しては、どうやってグリップしているのか。

「とにかく考えろ。24時間考えろ」

秋元がスタッフに飛ばす檄だ。何を考えるのか。前出『AKB48の戦略!』で、田原総一朗からそのことを問われ、秋元はこう答えている。

《何を考えるかを考えるんです。たとえばある会社に電話をしたとき、先方が「はい、田原商事の秋元です」と名乗るのを聞いたとします。そこで、用件を済ませたあと「普通は社名しか言わないけど、いまの人は社名と自分の名前を言ったぞ」と考えるんですよ。で、これはいいな、「うちの会社でもやろうと思うか?」です。ボケッとせずに、そういうことを考えるのが大事だと》

抽象的な指示こそ秋元の秘策

《ニューヨークであるホテルに泊まったら、ベッドメイキングしたところに2つ折りにしたメモが立ててあって、明日の天気と温度が書いてあった。メイドさんが手書きするわけです。明日の天気と温度がわかれば、雨だから観光は別の日にしようとか、涼しいから何を着ていこうとか、客にはありがたい。世の中は全部、そんな企画で満ちていると思うんです》

具体的な命令であればスタッフはそれに従えばよい。だが「何を考えるか考えろ」という抽象的な命令には戸惑う。何を提言すれば秋元の意にかなうのか。

ここに忖度が生まれる。そして忖度による企画や提言、行動は【忖度した側】に責任が生じ、【忖度させた側】に責任はない。秋元は責任を回避しつつ、意のままに従わせることができる。忖度を強いるこの手法こそ、まさにガバナンスにおける「寝業」なのである。