日本の企業や大学も標的にされている

2025年10月16日付で公表された英国保安局(MI5)長官ケン・マッカラム氏の脅威評価では、国家的脅威に関与しているとして調査対象となる個人が過去1年で35%増えたとされた。

この評価では、議会、大学、重要インフラに対するスパイ活動も脅威領域として名指しされた。国外のスパイ事件は、実際には大学の共同研究室、企業の採用部門、退職者の顧問契約、通信設備の調達にまでつながる問題である。

これは日本企業にとっても他人事ではない。海外求人サイトやビジネスSNSで届く高額の調査依頼、元官僚や元自衛隊員への講演依頼、研究者への海外招聘、スタートアップへの投資、海外子会社のデータ管理。いずれも通常のビジネスに見える。

だが、相手の実質的な依頼主、情報の最終用途、軍事転用の可能性を確認しなければ、秘密保持契約だけでは守れないノウハウが外へ出る。退職者の肩書きや研究者の人的ネットワークは、機密文書そのものよりも見えにくく、流出すると取り戻せない。

「信用できない国」という共通認識

中国にとって本当の痛手は、摘発が一件ごとの失敗で終わらない点にある。

事件が公表され、議会やメディアで議論されるたびに、中国との関係そのものに疑念が入り込む。研究者の招聘は警戒され、留学生や中国企業への視線は厳しくなり、大学や企業は共同研究の審査を強める。その結果、善意の研究者や留学生まで不当な疑いの目で見られ、人的交流の土台が細っていく。これは、中国が本来頼るべき民間交流まで細らせる損失である。

ファイブアイズが共同警告を出した意味もここにある。一国だけの警告なら、二国間の政治摩擦で片付けられる余地もある。しかし、米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの防諜機関が同じ文書で手口を説明すれば、それは同盟圏全体のリスク評価になる。企業や大学は「中国案件」を個別の商談として扱うだけで済まなくなり、経済安全保障の審査対象として見るようになる。

中国側から見れば、研究、企業、人材を通じた情報収集は合理的な国家戦略かもしれない。米国も英国も情報機関を持ち、同盟国もサイバーや人的情報の収集を行っている。そもそもスパイ活動は、多くの国家が行っている現実でもある。だが、いま中国が直面しているのは、活動の規模と手口が可視化されすぎたことによる信用コストである。

コンピュータを操作する人
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