厳格な管理体制が育むクオリティ

ヨーロッパから「そっくりそのまま」運ばれた設備は、平壌の寺洞(サドン)区域に「大同江ビール工場」として再構築され、2002年に生産を開始した。

ちなみに、このときに定められたのが、現代も守られている「麦芽と白米の配合比率によってナンバリングする」という命名規則である。これはロシアの「バルティカ」ビールに倣った手法で、1番から7番までの番号が几帳面に振られており、徹底したナンバリングで多様なフレーバーを管理しているのだ。

結果的に、この社会主義らしい厳格な管理体制が生んだクオリティは、敵対する欧米メディアすらも驚愕させた。米ニューヨーク・タイムズ紙は「朝鮮半島で生産された最高のビールの一つ」と絶賛し、英経済誌『エコノミスト』にいたっては「北朝鮮が韓国を打ち負かすことができる唯一の分野」とまで称した。

これこそが、彼らのビールが妥協なき本格派である最大のカラクリなのである。

北朝鮮レストランで提供されるビール。中国でよく見かける生ぬるいものではなく、バッチリ冷えたビールだ。
画像=筆者提供
北朝鮮レストランで提供されるビール。中国でよく見かける生ぬるいものではなく、バッチリ冷えたビールだ。

地方経済自立のための戦略的手段

北朝鮮ビールは、現在の金正恩政権下において、さらに近代的な進化を遂げている。現在、北朝鮮ではビールを単なる嗜好品にとどめず、地方経済自立のための戦略的手段と位置づける「地方工業発展20×10政策」が強力に推し進められている。

特筆すべきは、最高指導者である金正恩総書記自らが、まるで現代資本主義企業のCEOのような極めて実務的な品質管理の号令をかけている点だ。公式報道によれば、長淵(チャンヨン)郡に新設された地方食料工場を視察した際、同氏は「原料の選別から製品の出荷に至るまでの工程別に、標準操作に関する指導書(マニュアル)を作成し、厳格に遵守する体系を構築しなければならない」と具体的な指示を下した。

ただ闇雲に工場を建てて生産させるのではない。品質のばらつきをなくすための徹底したマニュアル化を要求し、さらには「新設された地方工場の間で開発競争、品質競争を積極的に展開せよ」と、各地域の工場同士を競い合わせることで国全体の技術水準を底上げするよう求めているのだ。地域の原料を活かした「地ビール」の開発を奨励し、厳格な品質管理と競争原理を導入する。社会主義国でありながら、その経営手法は驚くほど合理的で近代的なのである。