北朝鮮産ホップが生み出す力強い味

では、最近の中国において、北朝鮮ビールはどうなっているだろうか。筆者が2024年から直近にかけて、丹東や延吉といった朝鮮との国境に近い街で実地調査を重ねたところ、かつて「大同江ビール」一強だった市場に驚くべき変化が起きていた。現在では、他にも「龍城」や「平壌」など、多様な北朝鮮ビールが流通しているのだ。

ここで、国境の街の最前線で実際に味わった銘柄の圧倒的なポテンシャルをレビューしよう。特筆すべきは、丹東に店を構える大同江ビール唯一の海外直営店「朝鮮③ビアホール(朝鮮3啤酒坊)」の存在だ。北朝鮮の切手社が開業記念切手を発行することからもわかるように正真正銘の直営店であり、1階には醸造施設を完備している。北朝鮮レストランで提供されるのは瓶の2号が多い中、ここでは平壌でしか取り扱っていない全銘柄の「生」を味わうことができるのだ。

朝鮮③ビアホール(朝鮮3啤酒坊)の外観。扉の奥のスペースには大同江ビールの瓶が入った箱が山積みになっている。
画像=筆者提供
朝鮮③ビアホール(朝鮮3啤酒坊)の外観。扉の奥のスペースには大同江ビールの瓶が入った箱が山積みになっている。

前提として留意すべきは、北朝鮮のビールは基本的にホップに至るまですべて自国生産を謳っている点だ。他国のビールのような華やかなアロマとは一線を画す、土着的で麦の旨味が引き立つ力強いベースラインが全体に共通している。

大同江ビール「黒ビール5号」

この直営店が提供する「飲み比べセット」の中で、筆者のナンバーワンを挙げるなら、看板ブランド・大同江の王道ナンバリングをあえて外した黒ビール「5号」である。グラスに注ぐと真っ黒な色合いの本格派で、コーヒーの風味を感じさせるような奥深い苦味と濃厚なコクが漂う。ビールのお供として少し濃いめの味に作られたおつまみ、名物の少し黒ずんだ冷麺と一緒に流し込めば、至福の時が訪れる。日本のクラフトビールファンも、この味わいには唸らずにはいられないだろう。

さらに驚かされたのが、2026年に中国側での仕入れが始まったばかりの「妙香(ミョヒャン)ビール」だ。従来の北朝鮮ビールのイメージやコク重視の傾向を覆す、果実味あふれる鮮烈な酸味が特徴で、現代のビールのトレンドを押さえていた。

26年になって仕入れが始まったとされる妙香ビール。ビールとは思えないとてもフルーティーな酸味が特徴。
画像=筆者提供(容器の背景はAIで削除した)
2026年になって仕入れが始まったとされる妙香ビール。ビールとは思えないとてもフルーティーな酸味が特徴。

一方、日本人の味覚に最も馴染むという意味で安心感があったのが「龍城(リョンソン)ビール」である。中国に流通する北朝鮮銘柄で唯一となる640mlの大瓶を採用しており、口当たりが非常によく、日本の「サッポロ瓶ビール(赤星や黒ラベル)」を思わせる確かな麦の美味さと安定感がある。

龍城ビール。小瓶は330ml、大瓶は640mlの2サイズ展開という点がなんとも親近感を覚える。
画像=筆者提供
龍城ビール。小瓶は330ml、大瓶は640mlの2サイズ展開という点がなんとも親近感を覚える。