JR経済圏を取り込んだビック
さらにビックカメラは、JR東日本と提携したクレジットカード「ビックカメラSuica」を同時期に発行した。月に1度、2度しか家電量販店に足を運ばない顧客でも、Suicaへのチャージや定期券購入でたまったポイントを消化するため、テレビ・冷蔵庫の買い替え検討でも優先してビックに足を運ぶようになる。
池袋よりはるかに鉄道の利便性が良い新宿に進出した上で実施した「JRとのポイント連携」によって、ビックカメラはいわば「JR経済圏」の顧客を取り込み、ヨドバシを効率的に追い詰めることに成功したのだ。
池袋を諦めなかったヨドバシ
一方で、ヨドバシカメラも黙っていない。2024年4月17日・日本経済新聞のインタビュー記事では、ヨドバシホールディングス・藤沢昭和社長(現:会長)が「何度も池袋への出店を考えてきた」と語っている。2009年の「池袋三越」が撤退した際にも跡地への出店を検討したといい(駐車場などの条件が合わず断念、のちにヤマダ電機が入居)、ビックカメラの牙城・池袋での好物件を待ち続けていたようだ。
そんなヨドバシカメラも、条件をすべて兼ね備えた「池袋西武本店」の売却は想定外だったようで、フォートレスから購入の打診を受けた藤沢氏も「まさか(西武が)売りに出るとは思っていなかった」と語っている。それでも、3000億円もかかる物件取得にたった数日で結論を出せるあたり、非上場で同族経営(現在の社長は、藤沢昭和氏の長男・和則氏)という体制が経営判断の速さに繋がっていると言えるだろう。
そんなヨドバシカメラにとって、池袋進出のメリットは「20年前のビック新宿進出時のリベンジ」「本拠地・池袋でのビックの勢いを削ぐ」だけではない。池袋ヨドバシは、全国でも屈指の鉄道駅からのアクセスの良さを生かして、池袋に集積する西武・東武などの鉄道沿線を「ヨドバシ経済圏」に塗り替えていくだろう。
オープンセールでお得な家電を購入した人々は、店員の巧みな接客トークで「ヨドバシ・ゴールドポイントカード」を申し込み、使っているうちに「家電を買うときは、まず池袋のヨドバシ」状態に囲い込まれる……駅前タイプの家電量販店にとって、立地戦略はオセロゲームのようなもの。いかに鉄道沿線を経済圏として取り込み、ライバル店に向かう人流を封じ込めるかにかかっている。これから池袋では、ヨドバシvsビックの“リアルウォーズ”が繰り広げられる。眺めるために、池袋に足を運ぶのも良いだろう。
勝敗を分ける“ヨドバシの脱家電戦略”
池袋でのヨドバシ・ビックの競争で、もうひとつ差が出そうな要素がある。簡潔にまとめると「ヨドバシは集客施設・デベロッパー、ビックは電器屋さん」といった表現が、しっくりくるのだ。
ヨドバシが大型店化するきっかけとなった「マルチメディア梅田」出店(2001年)では、「売場が広大すぎて家電量販店の経営は成立しない」との風説を覆すかのように、家電以外の売場づくりに注力し続けてきた。



