洋上風力の適地は英国の8分の1
2015年にパリ協定が成立し、世界全体でカーボンニュートラルを目指すという目標が共有されて以降、電化戦略を進めつつ、電化では対応できない分野については水素やアンモニア等を活用するというエネルギー政策は、日本を含む各国で採られていた。
しかし、電化が緩やかにしか進展していないのも事実だ。特に運輸部門の電化、すなわちEVの普及が期待されたほどのスピードで進展していないことは多くの方がご存知の通りだ。
供給側も課題が多い。わが国の再生可能エネルギーは、固定価格買い取り制度(FIT制度)に後押しされ、世界に類を見ないスピードで太陽光発電が増加したが、平地に乏しいわが国では山を切り拓いて設置したメガソーラーも多く、地域における土砂災害などへの懸念や景観上の課題が増している。
地域の理解を得やすい適地が乏しくなり太陽光発電の導入スピードが鈍化する中で、政府は洋上風力発電に高い期待を寄せたが、資材価格の高騰やインフレ等により、世界各国で洋上風力には逆風が吹いている。
そもそもわが国は、北海沿岸の欧州諸国と比べて風況は恵まれず、着床式の洋上風力に適した遠浅の海域は英国の8分の1程度しかない。自然条件に恵まれているとは言い難いのだ。
政府は次世代地熱などの新技術にも期待を寄せるが、2040年に電力供給の40~50%を再生可能エネルギーで賄うという第7次エネルギー基本計画で描いた長期需給見通しを実現することは極めて難しい状況にある。
再エネは万能の解ではない
パリ協定成立以降、各国は気候変動に軸足を置いたエネルギー政策を採ってきた。
既に述べた通り、大幅なCO2削減に向けたセオリー「需要側の電化と電源の脱炭素化の同時進行」は、エネルギー安全保障のセオリーでもあるため、イラン戦争後の世界においてもその方針は間違いではない。
しかしエネルギー供給構造の転換にかかる時間軸について、我々は見誤っていたのではないだろうか。
エネルギーを含むインフラ事業に関わったことのある方と無い方との最も大きな違いは、転換に必要な時間についての認識だというのが筆者の率直な感想だ。
エネルギー供給構造の転換には、多くの方が予想するよりもはるかに長い時間が必要なのだ。
加えて、気候変動対策として、再生可能エネルギーの普及に期待しすぎたのではないか。
設備導入までに必要な時間や1kWhあたりの発電コスト(LCOE)において再生可能エネルギーが有利なことは間違いない。
だが、太陽光や風力の変動性をカバーするためには、バッテリー技術や水素エネルギー活用など、まだまだ多額の投資が必要とされる。
現状、再生可能エネルギーが万能の解とはなり得ないのに、その点を十分直視しない議論が多かったように思う。
電力需要の急速な増加やエネルギー安全保障の重要性の高まりの中で、あらゆる手段で電力供給力を確保する必要がある。
電力は国力そのものだ。そうした中で、原子力技術の活用に国がどれだけ本気で取り組むことができるかが問われている。

