「西側諸国は脱原発」は誇張

第三に、原子力事業環境の整備だ。

わが国は1990年代から発電部門や小売り部門を徐々に自由化してきたが、福島事故後、小売り部門の全面自由化、発送電分離等の施策に踏み切った。

経済成長が鈍化した社会においては、競争による効率性向上が優先されることは当然だが、原子力は極めて長期の事業であり、投資額も莫大だ。

5年後、10年後、自社がどれだけの電力を消費者に売ることになるのか不透明な環境では、大きな投資を判断することはできない。

西側諸国が脱原発の潮流だとわが国では喧伝されてきたが、実際には、電力自由化が行われ、原子力の新規建設が起きなかったという側面が強い。

政府は、2040年の具体的な建て替え基数を含む原子力の基本方針改訂作業を進めているが、これを具現化するには、設備投資に関わる資金調達コストの低減や事故時の損害賠償制度を含めて、原子力発電事業環境の整備を進める必要がある。

エネルギー安定供給には電気の活用がカギ

ホルムズ海峡封鎖が長期化する中でも、エネルギーの安定供給を実現するためには、エネルギーの海外依存を減らしていく必要があるだろう。

エネルギーの海外依存を減らすには、2次エネルギーである電気を活用することが柱となる。

電気は、化石燃料以外からも作ることができるので、需要の電化(例:ガソリン車→電動車への乗り換え)を進めると同時に、電源の脱炭素化(例:火力→再エネ・原子力)を進めることで、エネルギーの利用を過度に抑制することなく、エネルギーの国産化を進めることができる。

電気自動車の充電
写真=iStock.com/3alexd
電気の活用がカギ(※写真はイメージです)

「需要の電化と電源の脱炭素化の同時進行」は、これまで「気候変動対策のセオリー」とされてきたが、エネルギー安全保障の文脈においてもセオリーとなるわけだ。

こうした背景から、欧州は本年4月に、化石燃料の海外依存度を低減させる戦略「アクセラレートEU」(Accelerate EU)を公表。その中で夏までに電化目標を策定することを明らかにしている。また、脱炭素電源の重要な柱の一つとして原子力を再評価する動きが高まっている。本年3月、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は、「欧州が(原発に)背を向けたのは戦略的誤りだった」と明確に述べた。再生可能エネルギーの導入は変わらず継続するが、それだけでなく、次世代型原発の推進などにも取り組む方針だ。

また、カナダは本年5月、2050年までに国内の供給力を倍増させることなどを柱とした国家電化戦略を公表。同戦略には1兆カナダドル(約116兆円程度)程度の費用が必要とされるが、2050年時点で世帯の総エネルギーコストを150億カナダドル(約1兆7000億円)ほど削減すると期待するとしている。あわせて6月には同国初となる「原子力戦略」を発表した。原子力は安定した低排出電源であるとして、2050年までに原子力関連の人材を倍増させ、数十億加ドル規模の民間投資を促進し、国内産業の競争力強化を目指すことを掲げている。