専門家の予想が外れた東京の不動産市場
人口減少という時代において、東京でも土地が余り、不動産価格は下落するという考え方が支配的だった。特に東京五輪2020が閉幕したあたりで東京の不動産市場は下落傾向に転じると予想する専門家やデベロッパーは多かった。
筆者も「五輪後、東京の不動産市場は落ち着くので、慌てて晴海フラッグを買えば損をする」という意見を何度も耳にした。しかし、それらの予想は大きく裏切られた。
五輪後も東京都心部の不動産価値は高騰を続け、中古で1億円を超えるマンションが話題になり、すでに新築マンションは庶民に手が出せる代物ではなくなった。
そうした状況を見越して、タワマンは都外に主戦場をシフトしつつある。といっても、バブル期のように通勤で2時間という郊外ではなく、所要時間は40分から1時間前後が目安になっている。
そうした諸条件からデベロッパーが導き出したのが埼玉県川口市だった。埼玉県川口市は東京23区に隣接し、玄関となる川口駅から東京駅までは京浜東北線一本で移動ができる。なにより川口市は昭和期から鋳物の街として栄え、それらの工場は2020年前後から次々と建て替えのタイミングを迎えた。
川口市を取り巻く環境は、タワマン街化した武蔵小杉や豊洲と同じ構図で、すでに川口駅では朝ラッシュ時の混雑が激しく入場を規制する措置が頻発している。
混雑解消を阻む複雑な事情
川口駅は京浜東北線しか走っていないため、これを緩和する措置として川口市は以前より中距離電車を停車させることを要望していた。
中距離電車という表現は一般的には耳慣れないが、これは上野東京ラインと湘南新宿ラインの2つを指す。2つを停車させることになれば、利用者を分散させることができ、ホームで電車を待つ人たちの混雑緩和が期待できる。
しかし、JR東日本は首を縦に振らなかった。その理由は明快で、川口駅に中距離電車を停車させれば、川口駅から乗車する乗客によって上野東京ラインと湘南新宿ラインの混雑率が上がってしまう。それによって中距離電車が輸送障害を起こす可能性が高まる。
また、中距離電車の停車駅が増えれば速達性が失われて、所要時間が増えてしまう。これは上野東京ラインが京浜東北線化することを意味している。
中距離電車を川口駅に停車させる案は、川口駅の利用者にしかメリットがない。JR東日本が渋るのは当然だった。
中距離電車の停車を実現したい川口市は、湘南新宿ラインの停車を取り下げて上野東京ラインの停車に要望を絞った。これは川口市にとって妥協案だったが、妥協案が示されたことでJR東日本も歩み寄る姿勢を見せるようになる。最終的に川口市が停車によって発生する費用の大部分を負担することで合意した。

